うたぷり短編 | ナノ


キューイチ



朝、女子寮まで迎えに来てくれたら、

「たまたま通りがかっただけだからな!」

昼、サッカーの観戦に誘ってくれたら、

「お前に見てほしいとか、そんなんじゃねえから!」

夕方、重たい鞄を持ってもらうとき、

「困ってる奴は助けるのが男気だ。お、おまえの為じゃねえよ!」




――なんていうか、さ。

「来栖ってすごくツンデレだよね」
「わあ、すごく的を射てますねえ、それ」

あたしの呟きに、那月はうんうんと頷いて同意してくれた。ここは来栖と那月の部屋。那月に紅茶をお呼ばれしているところだ。来栖はよっぽど急用があったのか、青い顔でお茶会を辞退したらしい。那月曰わく、「ニックが来ると知ってたら、出て行かなかったと思いますよ」…そうだろうか。ううむ。
ぱくりとクッキーを一枚つまむ。うん、いつも通りパンドラの箱だ。何を入れたらこんな味になるんだろう。
とか言って、みんなが忌避するほどまずいとは感じないけども。珍味的な感覚でいただいていたりする。
この辺り、特に来栖からは、あたし自体が珍妙であるかのように見られているようだ。
…話がずれた。

「リアルにツンデレ見るとは思わなかったわ」
「僕からしたら、なかなかデレデレなんですけどねえ」
「そうかなあ?なんか那月にはヤンデレが通じなさそうだわ」
「やんでれ?」

それはわからないです、と首を傾げる那月に、知らんでいいよと手をひらひらさせた。
那月は全てを大きな愛で包み込んでしまいそうだよね。

「ていうか、あたしは来栖がデレたことはないと思うよ」
「そうですか?」
「うん。『〜ねえからな!』って、ツンばっか」

顔真っ赤だし、口調的にもその心はなんとなく、というかはっきり伝わるんだけど。
…でも、まあ。
あたしとしては、デレもちょっぴり見てみたいというか。
だってなんたって、来栖は可愛い。それが見た目だけじゃなく、溜めて溜めて溜めた末にデレが発動すれば、きっと萌えが増加すると思うのだ。
むしろ、蕩れ。
あいらびゅーって言ってくれたら、来栖蕩れって返す準備は万端なのだ。
通じないだろうけど。
まあ、とあたしはため息をついた。

「キューイチだからね」
「キューイチ?」
「そ。ツン:デレ=9:1って黄金比があるんだよ。だからまあ、来栖はなかなか正統派ツンデレだね」
「厳しいんですねえ…」

感心したようにほああと息を漏らす那月。なんだか純真な彼をいらない知識で汚している気がしないでもないが、そこはあえてスルーで。
メールでも届いていたのか、那月は携帯をぽちぽちとつついた。開いたまま伏せ、「うーん」と声を出す。

「でも、僕はもっと翔ちゃんにでれてほしいです」
「那月相手には結構デレてない?」
「ニックに対して、ですよ〜。だってニック、翔ちゃんのこと、大好きでしょう?」

きらきらした笑顔には、どんな嘘も通用しそうにない。
あたしはちょっとだけ迷って、だけどそれが本当の気持ちだから、隠せなくて。

「…そりゃまあ、そうだね。好きだよ」

ちょっと恥ずかしかったけど、笑って頷いた。
すると那月はさらににこりと深く笑んで、

「――だ、そうですよ?翔ちゃん」
『…おう』

…今、聞こえるはずのない声が。
那月は机に伏せていた携帯を、こちらに向けてきた。画面に映る文字は、『通話中 翔ちゃん』…ど、どういうこと。
那月はいたずらが成功したような顔で携帯を耳に当て、「もしもーし」と間延びした声を出した。

「そういうことですから、早く戻ってきてくださいね、翔ちゃん」
「…っ、もう、戻ってる、よ」

バタンと音がして、息を切らせた来栖が部屋に入ってきた。はあはあと大きく息をしている。
那月は用の済んだ携帯を閉じて、ポケットにしまった。そのまま立ち上がり、来栖のもとへ歩いてゆく。
あたしは動けない。当然だ、誰がこんな展開を予想しただろう。少なくともあたしは違う。
ぽん、と来栖の頭に手を乗せて、「素直になるんですよ〜」と言い残して那月は出て行った。
後に残されたあたしは、とりあえず来栖の息が落ち着くのを待つ。
もしかしなくても、聞かれたのではないか。那月にしてやられたというわけ?ああ、かなり恥ずかしいじゃないか。

「…、名字」
「な、なに」

来栖は息を整え、あたしを呼んだ。返事をすると、あたしの目の前にやってくる。

「その。お、俺…」
「………」

みるみると真っ赤になってゆく来栖は、ぶんぶんと頭を振って声を張り上げた。

「俺だって本当はおまえに優しくしたいんだよ!す、好きだ、バカ!」

そこで怒ったように叫んじゃうところが、いかにも来栖らしい。
恥ずかしさのあまり自分のベッドにダイブした来栖に、あたしは小さく笑った。


キューイチ

いつか、甘い言葉をささやいてね。


――――――――――

アンケより、「つんでれ!」でした。
みなさんのアンケネタににやにやしてしまう毎日です。
頑張って書き上げますね!

化物語ネタ、わかったでしょうか。

2011.10.08






bkm



top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -