うたぷり短編 | ナノ


君から伝わる



「オトやんは赤色、トキやんは黒」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「あ、翔ちゃん。やっほー」

なんとなく名前の部屋に寄ってみたら、彼女は机に向かって紙に何かを書いていた。振り返って笑顔で手を振ってくれたので、歓迎されたと判断して部屋に上がり込む。

「練習、終わったの?」
「ああ。今日はレンが遅刻しなかったから、早く終われたんだ」
「あら珍しい」
「だろ」

雑談しつつ、もう一つの椅子を名前に寄せて、隣に座る。
俺は名前とパートナーの関係にあるのだが、学園の試み『六人組アイドル』――《ST☆RISH》の一員として、今はそっちの練習に時間を費やしている。専属の作曲家としては七海がつき、渋谷がダンスなんかを一緒に考えてくれる。
自分で言うのもなんだが、なかなかいいチームだ。
そして名前はといえば、衣装を担当している。もともと絵が巧いから、適任だ。
…もちろん個人的には、名前の作った曲を歌いたかった。名前の歌を、名前だけのために歌いたいと、一緒に過ごすうちに思うようになっていたからだ。
まあ、なんだ。その…察してくれ。

「それ、デザイン?」
「うん。星の王子様をイメージしました」

その名前は聞いたことがある。確かめちゃくちゃ有名な童話だよな。
那月が英語版を嬉しそうに読んでいたのを覚えている。

「あー、大切なものは…なんだっけ」
「『本当に大切なものは、目に見えないんだよ』」
「それそれ」

名前は笑って、「まあ、違うけどね」と言った。

「童話じゃなくて、イメージ。主人公の少年を模す訳じゃないよ」
「そーなの?」
「そーなんす。で、デザインは一応できたんだけど、配色が決まらなくてね」

見せて、と首を伸ばせば、ピアノを弾く長い指が俺の目を覆った。悪戯っぽく笑う声がする。

「駄目よん。てか翔ちゃん、顔ちっさすぎ」
「ちっさい言うな」
「でかいよりはいいんじゃない、顔だし」
「…まあ、確かに」

カサリという紙のこすれる音も聞こえて、名前は手を顔から離した。デザインを隠したんだと思う。ひんやりした体温がなくなり、なんだか寂しくなる。
俺は椅子をさらに寄せて、甘えるようにくっついた。

「な、なにか?」
「別に。作業続けろよ」
「う、うん」

左腕は俺がいただいた。さっきまで顔に乗せられていた手のひらに、自分の手を絡める。
うん、あったかい。

「真斗くんは青色、神宮寺さんはオレンジ」
「そうだなー」
「相槌適当だ…」
「へへ」

俺は何色になるんだろう。と彼女の次の言葉を待つ。
名前は別のルーズリーフに簡単な似顔絵と色付けを行っている。鉛筆の音が耳に心地よい。

「なっちゃんは黄色かな。翔ちゃんは…」
「俺は?」
「翔ちゃんは、うーん」

悩まれてしまった。困ったようにこっちを見てくるので、その視線を受け止めてやる。
名前は可愛く首を傾げた。

「金髪はなっちゃんと被るしなあ…」
「被る言うな」
「黒マニキュアは…無いな」
「俺って今貶されてんの?」
「いや、違う違う」

むくれてみせると、名前は苦笑いして頬を引っ張ってきた。触られるのが心地良いから、何も言わないけど。

「うーん、やっぱあの色しかないか」
「どのひろだよ」

頬を伸ばされているために、発音が危うい。
名前は頬から手を離し、一本の色鉛筆を取り出した。

「ぴんく!」
「…え」
「怒るかなあとも思ったけど、似合うだろうなあって気持ちの方が強いんだよね」
「…俺の好きな言葉は?」
「んーと、『男気』」
「わかってんじゃねえか」

今度は俺が繋いでない方の手で名前の頬を引っ張った。柔らかい。

「ひんくが女の子のひろってのは偏見だよしょーちゃん」
「まあ、そうなんだけどさ」
「絶対にあうよーにしたげるからさ」
「…んじゃ」

俺は名前の頬を伸ばすのをやめ、代わりにそっと包み込んだ。
お前も顔ちっさいじゃん。
こつんと額を合わせて、甘える風に囁いた。

「ちゅーしてくれたら、許す」
「…む」

恥ずかしそうな視線を向けてくるので、繋いだ手に力を込めた。

「…目、閉じて」
「ん」

頬に当てていた手が外され、顔に名前の髪がかかるのを感じた瞬間。
唇に柔らかな感触。
数秒続いたそれは始まりと同じく静かに離れ、俺は目を開ける。
名前は真っ赤な顔をして、素早く色鉛筆を持って俺らしき似顔絵に何かを書き込んでいた。


君から伝わる

顔の横に描かれたピンクのハートは、恋の伝道師。


――――――――――
アンケの「pinkで!」に応えようとした結果がこれです。
意図が外れていたらごめんなさい!

アンケリク、ありがとうございました!

しばらく短編はリクエスト消化に力を注ぎます。

2011.10.02






bkm



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