うたぷり短編 | ナノ


マッチング!



本日、わたしたち――というのはつまり、わたしと翔ちゃんですが、わたしたちは二人でお買い物に来ています。
いわゆるデートというヤツですね。とてもにまにましてしまいます。

「どうした?」
「なんでもないですよー」

翔ちゃんもわたしも、当然私服です。早乙女学園の生徒だなんて道行く誰もわからないから、今日限りは翔ちゃんと恋人みたいにしてみたいのですが、さすがにそんなことは言えません。

だってどきどきするじゃないですか!

私服の翔ちゃんはとっても可愛くて格好良くて、自分の魅力を十二分にアピールしちゃってるんです。わたしも友ちゃんたちにコーディネートしてもらった服なのですが、どう見てもわたしの負けです本当にありがとうございました。

「…百面相でもしてんのか?」
「はっ」

おっといけない、つい自分のワールドに入り込んでいました。町の雑踏が再び聴覚を刺激します。

「流れに呑み込まれたらどうすんだよ」
「そしたら翔ちゃんが迎えに来てくれますよね?」
「…仕方ねえから行ってやるよ」

ふふふ、翔ちゃん照れてます。照れデレです。ちょっぴり視線を逸らして鼻の頭を掻くところなんて超絶キュートとしか言えません。

「翔ちゃん、大好きです」
「なっ…は、早く行くぞ!」

にんまりしてぽろりと零れた愛の言葉は、翔ちゃんにちゃんと届いたみたいで、真っ赤になってくれました。
そしてそんな顔を見られないようにわたしの手を取って歩くスピードを上げる翔ちゃん。その手の力強さがさっきの言葉の答えだと、そう信じてもいいですか?






「なあ名前、これなんかどうだ?」
「可愛すぎやしませんかね」
「そんなことないって!絶対似合うぜ」
「ええー」

そんなわけでわたしたちは大きなデパートにやってしました。デパート。英語だとデパートメントストアにしなけりゃいけません。和製英語のばーか。
そして二人で楽しく服屋さんへ。わたしはなかなか服へのこだわりが薄いので、代わってお洒落チビこと翔ちゃんに選んでもらっています。
しかし翔ちゃん、何故にそんな可愛い服ばっかり選ぶんですか。

「わたしはこういう安くて淡色のが」
「名前に任せると絶対ジャージみたいなのになるから駄目」
「ええー」

ジャージいいじゃないですか。着回しもできるし。

「お前はこういう服が似合うんだって、絶対!」
「…じゃあ、選んだの着てみますから」
「んじゃ、これとこれとこれ」

既に決めてあったのか、店内からいろんな服を取ってきてきらきらした笑顔で渡してきます。
わたしは言われるがままに試着室に入り、てきぱきとそれを装備しました。

「着ましたよー」

スカートのウエストがぴったりなことに多大なる疑問を覚えつつ、しゃーっと試着室のカーテンを開きました。

「おー」
「やっぱり似合いませんよ。こんなの絶対おかしいよ」
「いやいや、やっぱり俺様の見立ては間違ってねえな」
「スルーですか」
「ん?」
「いえ別に」

なんだか満足げな表情で、上から下までじっくり眺められます。…正直、だいぶ恥ずかしいです。翔ちゃんはこういう服装が好みなんでしょうか。
だとしたら、この服を買ってみたいと思ってしまうのは、ひとえにこの胸に抱く恋心ゆえ。

「翔ちゃん」
「んー?」
「か、可愛い…です?」

あ、駄目です。語尾がふるえてしまいました。いつも冷静かつ翔ちゃんが慌てるのを見て微笑を浮かべるポジションであるわたしが、つい照れを見せてしまいました。
なんたる失態。
翔ちゃんはにやりと一層笑んで、こう言いました。

「ああ、すっげー可愛い」

その瞬閧だけは翔ちゃんを可愛いだなんて呼べなくて、顔つきも声の調子も、『男の子』という感じで…なんというか、とても恋人っぽかったのです。

「…さいですか」

どきばく言ってる心臓に鎮まれと脳内で呼びかけながら、そう言うのが精一杯でした。


マッチング!

お似合いだねと、そう言われたくて必死なんです。


――――――――――

敬語萌え!

本当はアンケネタを書くつもりだったんですけどね…あれ?

2011.09.30






bkm



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