うたぷり短編 | ナノ


病気の功徳



「うー。ずびび…」
「38.7℃…風邪ね。ま、今日一日は休んでなさいな」
「すまんね我が級友よ…」
「頭もやられたみたいね」

先生には言っておくから、大人しく寝ていなさいよ。そう言ってルームメイトは学校に向かった。
ずびび、ともう一度鼻をすすって、布団に潜る。暑い。

「トキヤー…」

病気になったら、寂しくなっちゃうんです。







がちゃりとドアの開く音で目が覚めた。時計を見ると、昼を回った辺り。ルームメイトが様子を見に戻ってきたのかと名を呼んでみると、意外な声が返ってきた。

「いえ、私です」
「…と、トキヤさん?」
「ええ」

思わず体を起こす。うわ。頭がくらっとしたけど、入ってきたのは確かにトキヤだった。

「何故ここに」
「風邪と聞いたものですから。昼ご飯を作ってあげようかと思いまして」

そういえば何やらビニール袋を持っている。もう片手にはカセットコンロと鍋だ。
えへへ、と私は嬉しくなる。トキヤが私のためにわざわざやってきてくれたのだ。一番会いたかった人が。
何を笑っているんですか、とぶっきらぼうに言って、トキヤは手慣れた様子で料理の準備をしていく。

「たららったったったった、たららったったったった、たららったららららららた、ら、らん」
「…なんですかいきなり」
「HAYATO様のぉ、三分クッキングー!」

そんな番組があるのかは知らないが、ナレーションっぽく言ってみると、トキヤはHAYATOになって笑顔を向けた。

「本日作っちゃうのは、よーく精の付くおいしいおかゆだにゃ!って何をさせるんですか名前!」
「最早職業病だにゃー」

にやにやしながら言ってやると、かなり恥ずかしかったのかこっちを睨みつけてきた。怖いよー。
はあ、とため息をついて、トキヤは呟いた。

「まあ、元気ならそれにこしたことはありません」

やっぱりトキヤは根は優しいんだよね。
それからしばらく料理してる大きな背中をじっと見ていると、「できましたよ」と告げられる。

「わーい」
「もっと年相応の反応をしてください」

お椀によそって、ベッド脇までやってくる。私はきちんと座ってそれを受け取ろうとしたのだけれど。

「あーん」
「…へ?」

差し出されたのはお椀ではなく、おかゆをすくったレンゲ。

「ほら、食べなさい」
「え…と」

ちらっと見上げると、至極まじめな顔をしたトキヤさん。
恥ずかしさはある。けど私は思い切ってそれにかぶりついた。

「んんむぐうううっ!」

熱い熱い熱い熱い熱い!!生理的に涙が出てきた。猫舌なんですにゃ。いつも熱いものはふーふーするけど、だってトキヤにあーんとかされたらさぁ!口が痛い!
涙目になりながら飲み込み、トキヤを見上げて「み…みじゅ…」と舌足らずに頼み込む。痛い。熱い。でも美味しかった。
トキヤはそのまま動かない。は、早く水をください…!

「…あなたが悪いんですよ」
「!?」

そんな、猫舌を黙っていただけで!?トキヤはコップに水を入れ、自分で飲んだ。おい待てこの鬼畜外道!それを私にちょうだいよ!根は優しいとか言った奴誰だ!
とか思いながら抗議の声をあげようとしたとき。

「な――!?」

不意にトキヤのきれいな顔が近づいてきた。驚いて身を引くと頭を掴まれ、動けなくなる。
そして唇に柔らかな感触を感じたと共に、口の中に水が流れ込んできた。ごくりと飲み込むと、その感触は去っていく。

「と、トキヤ、何を」
「そそるんですよ、何もかも」

今度は水を含まない状態でのキスが降ってくる。

「ん…ぅ」

舌がねじ込まれ、自分のそれと何度もこすり合わせてくる。さっきのおかゆでざらざらになった舌は、深くトキヤと絡みついていた。

息が保たないと思った瞬間それは離れ、私は大きく息を吸っていた。

「そろそろ、時間ですね」

時計を見てトキヤが立ち上がる。

「冷めてからでいいですから、きちんと食べてくださいね。道具は放課後取りに来ます」
「…トキヤの、昼ご飯は?」

聞きたいことはいっぱいあったけど、とりあえず口に出たのはそんな質問だった。
トキヤは軽く微笑を浮かべ、扉へ向かう。

「ごちそうさまでした、名前」

この顔の熱は、風邪のせいだけじゃないはずだ。


病気の功徳

風邪でよかったかも…なんて。

――――――――――

題名は夏目漱石から。
アンケより、「風邪を引いたヒロイン/トキヤ夢」でした。甘い。翔ちゃんより甘い。
翔で甘いのを書こうかなぁ…

アンケリク、ありがとうございました!

2011.09.25






bkm



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