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僕のデザート
「音也くん音也くんそれは何かね」
昼間。部屋で冷たいパフェを食べていると、パートナーの名前がやってきた。作曲ファイルを持っている。いい曲でも思いついたかな。
しかし名前は部屋に入ってくるとファイルを無造作に放り投げ、俺の座るソファの前できらきらと目を輝かせた。
彼女は甘いものに目がないのだ。
「何って、パフェだけど」
「どこで手に入れたのそんなの。あああ美味しそうだあああ」
容器に顔を近づけて、甘い香りを吸い込む。それがあまりにもいい匂いだったのか、にへらと表情を崩した。
…可愛い。
「これは食堂の新作らしいよ。試作品だって、貰った」
「うっ、羨ましい…」
人差し指をふくよかな唇にあて、俺がスプーンでクリームを掬う様子をじっと見ている。今にもよだれが垂れそうだ。
いつにも増して可愛すぎるんだけど。当社比三倍といったところだ。
ちらりと目線を合わせてみれば、声にならない願いを一生懸命俺に送っていた。
「名前」
「ん、なに?」
声に期待がこもりすぎている。これはいたずら心起こしたって仕方ないよね。
「まあ、こっち座りなよ」
「あ、うん」
表情だけで名前の感情がもろに伝わってくる。残念そうだ。
俺は横にずれて名前を隣に座らせた。
「名前」
「うん?」
「欲しいなら、どうすればいいかわかるよね?」
スプーンで一口分掬い、右へ左へ動かしてみる。
面白いくらい名前の頭がそれにつられた。脳内はパフェで埋め尽くされているみたいだ。
なんかそれはむかつく。
「はぐ!」
耐えきれずに、名前はスプーンに向かってくらいついた。
「俺の運動神経、舐めてもらっちゃ困るよ」
しかし当然その前に俺はスプーンを引き、自分で食べる。
「あぁ…」
「欲しいものがあるときは、ちゃんとお願いするんだよね?」
俺がこんな意地悪い性格だったなんて、自分でもびっくりだ。
「お願いしたらくれるの?」と再び目を輝かせて訊いてくる名前に、笑顔で頷いた。
「音也、ちょうだい!」
「よくできましたー。目、閉じて」
名前は嬉しそうな顔をした後、目を閉じて口を開けた。
かちゃりと、ガラスとスプーンの触れ合う音が響く。
わくわくしながら待っている名前に知られないように、俺はそっとアイスを口に含んだ。
無防備なのが悪いんだよ、名前。
そっと顔に手をそえて固定し、少しのためらいを振り払って、舌に乗せたパフェをそのまま名前の口内に入れた。
「ん……っ!?」
びっくりして口を閉じようとしたところで唇を合わせ、逃げないように体を寄せる。
甘さをちょっとでも感じさせてやろうとすると、力が抜けたかくたりと腕に寄りかかる。
そのまましばらくくちゅくちゅとキスを楽しんだ後、俺は顔を離した。
「…音也のばか」
「でも、甘かったでしょ?」
腕の中で涙を溜めながら見上げてくる名前の可愛さは、当社比十倍といったところか。
僕のデザート
多分、一番甘いのは名前だと思う。
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アンケより「黒音也」でした。
…黒いのか、これ?
上手をいくだけで全然黒くない気がします。そして無駄に甘い。翔ちゃんでやれといいたい。
音也の口調を誰か教えてください。
……とにかく、アンケリクありがとうございました!
2011.09.12
bkm
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