うたぷり短編 | ナノ


imitation boy



「名前ー、おはよー!」

今日も朝から元気そうな音也の声が聞こえる。よくもまあ早朝からあんな大声が出せるもんだ。

「おはよ、今着替えるね」

答えて、のそのそと起き上がり制服に袖を通す。髪を数回といて、後は寝癖も何も関係なしに一つにまとめ上げた。顔をパシャパシャと水で洗い、準備完了。
ルームメイトがいなくなってから毎日目覚ましついでに迎えに来てくれる音也を待たせないために、早着替え、早準備の術を身につけたのだ。
だったら早く起きろとは言わないで欲しい。

「おっけー音也、朝ご、は…」

しかし扉を開けた瞬間、私は言葉を失った。
漫画だときっと頭の上には大きく「!?」と出ているに違いない。生涯を通じてお化け屋敷で驚いたことのない通称毛の生えた心臓と呼ばれる私が、持っていた鞄を取り落としてしまうのも無理はなかった。
目の前の光景、それは。

音也が黒くなっていた。

体は金縛りにあったように動かない。目だけで音也…らしき人を眺める。黒髪だ。黒眼だ。誰だこいつ。知らない。
黒髪?と私は一人の友人を連想する。もしや、いやきっと奴だ。そうに違いない。

「トキヤァァァァァ!!」
「えっ、名前、どうし」

音也(仮)の伸ばした手を払い、私は音也とトキヤの部屋へ全力で走り出した。

◇◆◇◆◇◆◇


「トキヤあんた何しやがった!」
「ん?」

案の定扉を開けるとトキヤがいた。何度も入ったことのある室内にずんずんと入り、着替え中だったトキヤの胸ぐらを頑張って掴む。
無駄に背が高いんだよちくしょー!

「強制植毛は常識的にやっちゃだめでしょ!」
「何の話ですか!?」

しらばっくれるつもりらしい。しかし、昨日まで赤かった音也が黒くなるのは、昨日の夜以外にあり得ないのだ。そして夜一緒にいた奴は紛れもないトキヤなのだ。

「いつも同じ髪型だと思ってたけどあれでしょ、それカツラなんでしょ!そんで地毛を音也に移植したんでしょ!」
「何を言っているのかさっぱりわからないのですが」
「とぼけても無駄だ!」

トキヤの綺麗な顔を睨みつけ、「名前ー」とやってきた音也(仮)を指差す。

「あんな音也、音也じゃない!早く戻せ鬼畜変態つり目!」
「俺は俺だよー…」
「その呼称についてはまた後から説教するとして」

トキヤは静かに私の手を外し、乱れた着衣を整える。

「何を騒いでいるのかはなんとなくわかりました。…しかし、どう勘違いしているのかわかりませんが、音也はもともと黒眼黒髪でしょう」
「…………………は?」

耳を疑った。しかしトキヤの仏頂面は崩れない。
音也(仮)を振り返る。見れば見るほど気持ち悪い。音也(仮)はぽりぽりと頬をかいて、

「トキヤの言うとおり、俺は昔からこんなだよ?名前、どうしちゃったの?」

浮かべる苦笑も、仕草も、全てが私の知っている音也と合致する。
でも、私からしてみればそれは音也じゃないのだ。
限りなく音也に近い別人なのだ。

「う……っく………」

抑えきれない嗚咽が、唇の隙間から漏れる。

「帰ってきて……」

泣くなんてみっともない。
だけど私は涙を流さずにはいられなかったのだ。

「帰ってきて、音也の色素…!!」



・・・・
・・・
・・




「っていう夢を見たの」
「俺のアイデンティティって、赤さなの?そうなの?」


imitation boy


「やっぱり赤い音也が一番格好いいよ」


――――――――――

アンケより「黒音也」でした!
って違いますよね、黒ってこうじゃないですよねわかります。
後から「腹黒」音也を書きたいと思います。

2011.09.12






bkm



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