うたぷり短編 | ナノ


ゆびきりげんまん



むかつくという感情を知らないほど、自分は愚かでない。
トキヤは改めてそう自己認識した。
いつにも増して鋭くなった視線の先には、来栖に髪を梳いてもらいながら神宮寺と楽しそうにお喋りするパートナーの姿。
むかつく。
気にくわない。
つまりは嫉妬なのだと、心の底でトキヤは息を吐く。

(早く離れてくれませんかね)

声に出さず、視線だけを三人に送るも、誰一人として気づかない。せめて名前だけでも、と強く念じるも、ふわあと一つ間抜けな欠伸が飛び出すばかりだった。

「どうしたんだいレディ?眠いのかい?」
「昨日は作曲意欲がすごかったのよ」
「だからって髪はちゃんと乾かせよ、ほつれてるだろ」
「善処しまーす」

いけしゃあしゃあと口だけで約束する名前。来栖はがくりと肩を落として、

「…まあ、また俺様が梳いてやるよ」
「さすが来栖」

名前が手を伸ばして来栖の額に触れると、彼は頬を赤らめて「おう」と呟いた。
それと同時に、トキヤのイライラも絶好調に達した。
音を立てて立ち上がり、ずんずんと三人に近寄る。

(もう我慢できません)

驚きで固まる三名。その真ん中に座る少女の細腕をむんずと掴み、引っ張った。

「と、トキヤ?」
「今ならとても上手く歌える気がするんです。だから行きますよ名前」
「え、ちょ、ちょっと!」

ぽかんと口を開ける来栖とにやにや笑いを浮かべる神宮寺を残し、有無をいわさぬ勢いで、トキヤは名前を連れて教室を出た。


◇◆◇◆◇◆◇


「トキヤ、トキヤってば!授業どうすんのよ!」
「サボります」
「サボっ……あんたが!?」
「たまにはいいでしょう」

名前の腕をつかんだまま、到着したのはレコーディングルーム。あれよあれよという間に鍵をかけられ、名前は壁際に追い込まれる。
状況を理解できず困惑する名前に、トキヤは低く告げた。

「貴女のパートナーは誰ですか」
「ト、トキヤ…ですが」
「だったら、どうして朝一番にあの二人の元へ行ったのですか」

いっそう距離を詰めて問えば、その近さに赤く、怖さに青くなりながら、名前は言葉を紡ぐ。

「だって、髪が」
「髪くらい私にだって直せます。一ノ瀬トキヤを馬鹿にしているんですか」
「いや、えっと」

無様だ、とトキヤは思った。目の前の少女にそんな気が無いことくらいわかっている。勝手に焦って、勝手に嫉妬しているだけなのだ。
それでも、余裕をなくすほどに名前に恋い焦がれている。
それまで視線を狼狽えさせていた名前は観念したかのように口を開いた。

「…変な髪型で、トキヤと話したくなかった」
「……え」
「恥ずかしかったのよ!それだけ!何も凄い剣幕醸し出すことないでしょう!」

怖いわよ、馬鹿トキヤ。そう顔を真っ赤にして呟いた名前を見れば、嫉妬だとかやきもちだとか、そんな些細な感情は全て消えていった。
今はただ、愛しさだけが募る。
自然、微笑んでいた顔を隠すように、今度は彼女を優しく抱きしめる。名前も抵抗せず、その胸に身を任せた。

「名前」
「なに?」
「この一年が終わったら、伝えたいことがあります」

緩いうねりの残る長い黒髪をそっと手で梳いて、頭頂部にそっとキスを送った。

「…その時は、私も。貴方に、言いたいことがあるの」

そっと二人は距離をとり、どちらからともなく小指を結び合った。


ゆびきりげんまん

本当に大切なのは、あなただと。


――――――――――

アンケから、「トキヤにやきもち妬かせる」でした!
ネタ提供ありがとうございました!

トキヤさんは完全に守備範囲外なので似非覚悟で書かせていただきましたが、敬語が楽しかったです。

翔ちゃんが出張るのは仕方ないと思ってください…

2011.09.11






bkm



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