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純情マイハニー
「なっちゃん隊長、翔ちゃんを発見いたしました!」
「了解ですニック副隊長、今すぐぎゅ〜ってしに行きましょう!」
「いえっさー!」
中庭を挟んだ向かいの廊下で、我が愛しのマスコットを見つける。一緒に歩いていたなっちゃんと共に、すぐさま駆け出した。
何を隠そう、なっちゃんとは“翔ちゃん愛で隊”を結成しているのだ!
「名前っ、那月っ!?く、来るなー!」
翔ちゃんは私たちを見た瞬間に青ざめてあわてて逃げ出した。走り方さえかわいい。
本当にアイドル向けだよね、翔ちゃんって。スキャンダルが起こったら、「翔ちゃんが恋とかするはずないわ!」とかファンが発狂するんだろうな。ピュアボーイって印象が強いんだよね。
もちろん中身もピュアなんだけど。
「なっちゃん!」
「わかってます!」
短く声をかけると、なっちゃんは長い足を活かしてどんどん翔ちゃんに迫ってゆく。
翔ちゃんの弱点は、体力がないところだ。そのコンプレックスNo.2(1は身長)、しっかり利用させてもらおう。
翔ちゃんを思い切り愛でるために。
「しょ〜うちゃ〜ん!」
「げっ、那月!も、もう追いついて…」
「ふふふ、捕まえましたよ〜」
いつの間にかなっちゃんが翔ちゃんを捕獲していた。
ばたばたてもがく翔ちゃんは本当に可愛くて、なっちゃんの腕の力も強まってゆく。誰だってそうする。私だってそうする。
「はーなーせー!」
なっちゃんの怪力故にぎりぎりと骨のきしむ音が聞こえるほどにようやく近づいたとき、翔ちゃんが何とかなっちゃんの腕から抜け出し、どんと突き飛ばした。
私の息はかなりあがっている。もともと運動は得意ではないのだ。しかし待ち望んだ瞬間が今ここに!
スキありだぜ翔ちゃんっ!
「私は疲れている、だから癒やしをプリーズミー!」
「なああ名前まで来たあああ!!」
振り返ったところを横から思い切り抱きついて両腕を翔ちゃんの首もとにまわし、ぎゅうと体を密着させる。ああ、翔ちゃんの匂いがする。人の体の温かさに心が満たされてゆく。やはり抱きつくなら翔ちゃんに限る。春ちゃんも可愛いんだけど、少年特有のいい硬さがたまらない。私はにまにまと翔ちゃんの肩口に顔をこすりつけた。だっていい位置にあるんだもん。
「おまっ、は、離れろ!」
「だが断る全力で」
「耳元で喋んなっ」
「ふー」
「あ、ぅっ……!?」
「何この子可愛すぎる!!」
「…っ一辺地獄に落ちやがれ馬鹿名前っ!!」
耳を真っ赤にして言っても全く怖くないよ翔ちゃん王子。
リラックスさせようとしてのことだったのだが、ますます体はかたくなるばかり。しかしさっきの反応はかなり可愛かったなあ。録音したかった。
「僕も混ぜてくださいよーう」
なっちゃんが体勢を立て直して、反対側から翔ちゃんに抱きつく。翔ちゃんは声にならない悲鳴を発していた。
わぁいサンドイッチだね!と言おうとしたら、
「あ、れっ」
その突進の威力が強すぎたのか、ぐらりと後ろに傾く感覚。バランスを崩したのだ。
やばい。
頭を打つことを覚悟し、予想される痛みに先んじて目をつぶった。
「名前!」
どさっという重量感のある音とともに、くらくらするような一撃が後頭部に…ない。
あれ?
「大丈夫か、名前!」
痛くないどころか、あたたかいぐらいだ。
そっと目を開けてみると、翔ちゃんが目の前五センチ以内にいた。
頭に腕が回され、地面との激突を防いでくれたらしい。
「…わお」
「頭打ったりしてねえか?」
いやこの距離は近すぎますよ。正直目を合わせられないレベル。密着なんて慣れてるはずなのに、身じろぎ一つできない。
私の静かな様子に気づいたか、翔ちゃんは軽く笑う。
「照れてる?」
「やっ、別に…」
「俺様がいつもどんな思いしてるか、これでわかったろ」
そう言った後翔ちゃんは、それでこそ翔ちゃんだという風に真っ赤になりましたとさ。
…私もだけどね。
純情マイハニー
「照れてる二人ともかわいい!」
「な、那月っ!」
「く、苦しい…」
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ギャグで書こうと思っていた。はずなのに意味わからんことになった。甘くもない…かしら。
ありがちなタイトルに合掌。
読んでいただき、ありがとうございました!
2011.09.08
bkm
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