薄桜鬼短編 | ナノ


僕は風見鶏



「平助くん、好きな子がいるんだって?」
「ふぐっ!?」

思わず団子を喉に詰まらせる。名前が差し出してくれたお茶をごくごくと飲む。

「うあっ、あつっ」
「沸かしたてですもの」

はあはあと大きく息を継いで、混乱した頭を落ち着ける。え?何て?オレの好きな人?
背中をさすってくれる名前に尋ねる。

「どこで聞いたんだよ、そんなこと」
「どこもなにも、ここで。巡察中の新撰組の方が休憩されているときにこっそりね」
「うわあ…」

絶対幹部の誰かだよ、それ。んで絶対わざとだろ。

だってそもそもオレが好きになってしまったのは目の前の名前だ。この団子屋に初めて来たとき、同じ江戸出身だってわかって意気投合し、よくここへ通っているうちに、いつの間にか好きになっていた。
そしてそのことを相談したらみんなに広めやがった左之さんのせいで、オレの恋心は幹部皆の知るところとなっている。
今日帰ったら、からかわれるんだろうな…

「で?実際どうなのさ」
「どうって」
「好きな子いるの?」

噂好きな江戸っ子の血か、名前の目はきらきらと輝いている。
お前だっつーの!

「あー…うーんと…」
「男ならはっきりしなさいよね。そんなんじゃ掴める幸せも逃げてくぞ」

ばしんと背中を叩かれ、何故か励まされた。
なんだこれ、失恋なのか?オレは伝える暇なくふられちまったのか?

「たった今幸せが逃げていった気がする…」
「ありゃあ。ご愁傷様」

おまけしといてあげよう、と名前は奥から団子を一本持ってきて皿に置いてくれる。

「んー、平助くんに好かれるなんて、かなり羨ましいと思うけどね」
「…え?」
「平助くん優しいし、強いし、かっこいいし、面白いし。そりゃまあ、ちょっと餓鬼じみてるけど」
「歳はそんなに変わらねえじゃん」

風向きが変わってきたのをひしひしと感じる。同時に、心臓がどくどくと音をたてはじめた。

「わたしがその子なら、きっと承諾するだろうなー」
「そ、それ、本当か!?」

知らず知らず身を乗り出して尋ねる。思わず手を掴むと「あ…」と声を漏らして名前の頬が紅潮した。
おい、これはいけるんじゃねえか?

「オ、オレが好きなのは」

がたりと立ち上がり、名前の肩に両手を置いて、その瞳をじっと見つめる。
心臓が早鐘を打っている。緊張で震える口に力を入れて、ありったけの勇気を振り絞って叫んだ。

「名前、好きだっ」

ぽかんと口を開けて固まる彼女の真っ赤な頬に、やけくそに口づけを送る。

「あ、明日返事聞きに来るから!考えといてくれっ!」

そしてオレは手早く代金を握らせ、団子屋から一目散に逃げ帰った。
彼女の一挙一動に、こんなにも心を動かされる。


僕は風見鶏
(君の望む方角へ)


――――――――――

初平ちゃんでした。口調とか視点とかわけわかんなかったです。でも可愛かったー

2011.09.04







bkm



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