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二人夜
ぎゅうと、平助がまた力を込める。これ以上ないくらいに密着しているはずなのに、私は更に平助の体に押し付けられた。
「痛いよ」
「ん」
ん、じゃなくてさ。
湯浴みを終え、体が冷えないうちに就寝しようと準備していたとき、突如平助が部屋へやってきた。
平助は、羅刹の身だ。
こんな所にいるのを土方さんに見つかれば、処罰は免れないだろう。
驚いている私を平助はぎゅっと包むように抱き込んで、そのまま座り込んだ。
どうしたの、と聞いてもいっさい返事は返ってこない。四半刻ほど理由を知ろうとあれこれ尋ねたけど、「名前、うるさい」の一言に口をつぐまざるを得なくなった。
痛いくらいの拘束に、私は全く身動きがとれない。
乾ききっていない髪先からぽたぽたと水滴が落ちて、着流しに染みを作っている。
「へいす」
「名前…っ」
痛いよ、ともう一度言おうとしたとき、平助の声に異変が起きた。
びくん、と体が大きく跳ね、心臓の音が数段早くなった。何があったの?たちまち平助が心配で、私は掴んだ袖を引っ張る。
頭も体もぎりぎりと締め付けられて、骨がみしみしという音さえ聞こえてきそうだ。
「う、ああ、あぐ…っ」
「平助、平助!」
「名前、…っ!」
そっと、平助の堅い指が私のうなじを撫でた。その官能的な手つきに、思わず私は肩を跳ねさせる。今、平助に一体何が起こっているの?――分からない。
うなじを撫でたその手で、今度はきつく腰をかき抱かれた。
「へい、すけっ」
「うぐ、あああっ!」
一際強い力で押しつけられた後、急に平助の体から力が抜けた。私は平助から解放され、急いで彼の顔をのぞき込む。
「…っ」
そして、理解した。目を閉じて荒い息をする平助の前髪は、白から茶色に変容しつつあった。うっすらと瞼をあければ、赤い光が徐々に消えていっている。
「名前、ごめんな」
「馬鹿…っ」
今度は、私が平助の頭をぎゅっと抱きしめた。反動でぽたりと水滴が垂れる。
平助の、大馬鹿。
「吸っていいって、言ったじゃん…」
「それは、俺が嫌なの」
「馬鹿っ…苦しかった、でしょ」
「うん、結構」
でも、もう平気。そう言って力なく笑うこの人は、きっとまた次も一人で衝動を抑えちゃうんだろう。
「名前、こっち向いて?」
いつの間にか、私はまた平助に抱きしめられる形になっていた。そっと平助の顔を見ると、いつから出来るようになったのか大人の表情で、
「さっきの代わりじゃないんだけどさ」
大きな手で、頬を撫でて、
「ちょっと苦しい口づけ、してもいい?」
「…っ私は、平助なら」
知らぬ間に零れていた涙をぬぐって、私は平助に微笑んだ。
「何だって、いいよ」
「名前…」
平助の顔が近づく。私は目を閉じる。ぺろ、と唇を舐められる。くすぐったくて声を漏らせば、くすくすと平助が笑った。遠慮がちだったのもそこまでで、突然平助が噛みつくように唇を押し付けてくる。かり、と八重歯で唇を甘噛みされると、つい体を震わせた。
静かな部屋の中に、口づけの音だけが響く。
息も絶え絶えになりながら長い口づけを終えると、私たちは額をこつんと合わせて、目だけで笑いあった。
二人夜
お互いだけを見つめて。
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何が書きたかったのか。
エロ…くないですよね?大丈夫ですよね?
2011.12.31
bkm
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