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「と、ともちゃん、そっと」
「うん、わかってる」
私と春歌ちゃんが見守る中、ともちゃんが震える手で苺をそっとケーキの上に置いた。
よし、これで、
「完成〜!」
笑顔で振り返ったともちゃんが突き出した手にぱんと自分の手も合わせ、「お疲れさま」と言う。
「舞衣穂もね」
「おいしそうにできたね」
春歌ちゃんに続いて出来上がったケーキを覗き込むと、うん、確かにおいしそう。
「じゃあ、これを、冷蔵庫に」
私はケーキにラップをかけ、お皿を持ち上げた。生クリームは甘さ控えめで、フルーツを中心に。チョコペンで書かれた『HAPPY BIRTHDAY』は春歌ちゃんの力作だ。白い平原の中心にはやはり赤い苺がよく映える。
来栖くん、喜んでくれるかな。
ううん。きっと、喜んでくれる。
びっくりしたような顔をして、次いで嬉しそうに笑むパートナーを思い浮かべて、私は今からとても楽しみになった。
それが油断だったのかもしれない。
「あれえ、三人とも、何してるんですか〜?」
「!!」
達成感に浸っていた私たちに、彼の来訪はあまりにも大きな衝撃だった。
なっちゃんさんだ。この集まりを、今一番知られてはいけない人物。
なんでよりによってなっちゃんさんがここに…?
落としそうになったお皿をなんとか持ち直し、自分の体で隠すようにしてあわてて後ろを向く。
「し、四ノ宮さん、どうしたんですか?」
春歌ちゃんの声も慌てている。なっちゃんさんは何も変わらず、いつも通りの間延びした声で言った。
「クッキーさんを焼こうと思って」
「クッキー?」
「はい〜。今日は特別な日なので」
そうか。お菓子作りが趣味ななっちゃんさんなら、今日という日に何か作ろうと考えても不思議じゃない。
考慮に入れておくべきだった。
冷や汗がたらりと頬を伝った。
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bkm
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