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最近、神前の様子がおかしい。
風呂からあがり、あとは寝るだけという状態の中、俺はベッドにあぐらをかいて腕を組み、うーんと考え込んでいた。
例えばこの前の土曜日、「明日、歌の練習に付き合ってくれ」と神前に言うと、焦ったように目を宙に泳がせて「明日は、その、お買いものが、あるから」と告げたあと、ごめんなさいと頭を下げてそそくさと寮へ帰ってしまった。
いや、買い物なら仕方ないのだ。それはわかっている。わかっているけど、あの動揺具合はどう考えたっておかしい。嘘をついている可能性だって考えられる。
あいつ、嘘ついてまで、俺との練習が嫌だったのか。
神前はそんな奴じゃないと頭ではわかっているはずなのに、そう考えることは止められない。以前一度泣かせるくらいひどく怒鳴ってしまったことだってあるし…。
マイナスな思考がぐるぐると頭をめぐる。
「あー」
そのまま布団に倒れこむ。
神前の様子をおかしいと感じる原因はまだあった。変に頻繁に音也やトキヤと話をしていたり、何かを書いていたノートを覗き込むと慌てて隠されたり、渋谷たちとひそひそ話をしたり、今日だって放課後になると廊下を駆け抜けてどこかへ急いでいたり。
何だか疎外感を感じる。そう、それだ。疎外感。
「神前」
呟いてから一気に顔が紅潮するのが自分でもわかった。あ、アホか俺は。まるで恋する乙女みたいじゃねえか。違う、今のは単にあいつが何をたくらんでいるのかが気になっただけだ。それだけだ。
大きく溜息をついた。那月はまだ帰ってこない。あいつは風呂が長い。背丈と同じくらいに。ん、待てよ。長く風呂に入る習慣を持てば、俺も身長が伸びるのだろうか。よし、明日から試してみよう。
…何を考えてるんだ、俺は。
「明日、聞いてみるか」
ごちゃごちゃ考えていたって答えが見つかるわけがない。だったら男らしく正面からぶつかってやろうじゃねえか。その方がよっぽど俺らしい。
那月が戻ってこなければ電気が消せない。
眠りに就けるのはまだもう少し先のようだった。
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bkm
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