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音也くんに来栖くんとなっちゃんさんの誕生日パーティ開催の紙を貰った翌日。その二人と神宮寺さんを除いたいつもの顔ぶれが音也くんの部屋に集まっていた。
「アイツはどうした」
聖川さんが音也くんに聞く。聖川さんが言うところのアイツとは、恐らく神宮寺さんだ。この一カ月で二人の仲の悪さは理解したつもりだ。同室なのに。
…それを言うなら、私も同じか。
「レンなら女の子に誘われてお茶会だってさ」
「……」
聖川さんの整った眉がぴくぴくと動いた。
「まあいいじゃない。それより、早く細々したこと決めようよ」
ともちゃんの言葉にみんながうんうんと頷き、やがて思案顔になった。
一ノ瀬さんが部屋を見渡しながら言う。
「場所はここなんですよね、音也?」
「うん、そのつもり。夕飯の後に二人を呼ぼうかと思ってるんだ」
「それじゃ、放課後の数時間くらいしか準備できる時間がないんだね」
「そうなんだよね」
放課後から、夕飯まで。その限られた時間の中で、何ができるんだろう?
ひとつ思いついたことを、私はおずおずと口に出した。――一か月前なら、きっと喉の奥に押しとどめていただろう。だけど今なら、自分の意見をきちんと伝えられる。自分で言うのもヘンだが、なんだか成長を感じ取れた気がして、嬉しくなった。
「あ、あの」
「ん、何?」
「前日に、スポンジだけ焼いて、当日に、デコレーションを、して」
「舞衣穂ちゃん、ケーキ焼けるの?」
春歌ちゃんの言葉に私は頷いた。
「お父さんの、誕生日に、作ってたの」
「じゃあそれ決まりだね。あとは…飾りが必要かな」
ともちゃんの提案に、誰も異議は無いようだった。
「部屋の飾り付け…わかざりとやらを作るのか」
「うん。楽しみだね」
「クラッカーは欠かせないでしょう」
意外な人物からクラッカーなんて言葉が出てきたから、ちょっとおかしな感じ。好きなのかな。
「それじゃ、女子寮に戻ってどんなケーキにするか考えようよ」
「うん!」
わいわいと話が進み始めたみんなを見て、私は不思議な感覚を覚えた。
なんか、いいな。
胸にあたたかな気持ちが広がっていく。
ほわん、と。擬音をつけるならそんな感じだ。
友達のために何かをしようとする、この風景。
そこに私が混じっているということに、言いようもない嬉しさがこみ上げてくるのだった。
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bkm
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