うたプリ長編 | ナノ


25



六月に入り、なんとなく空気が湿気を帯び始めた。
私は中庭から太陽を見上げた。前にこうしたのはいつだったか覚えていないが、あの時の日差しよりもぎらぎらと照りつけているような気がする。
そうか、夏が来るんだ。
初々しい春はほとんど過ぎ去ってしまった。私たちはもう新入生ではない。ぬるい温度の風が素足に触れる。大変なのは、これからだ。

「……よしっ」

だけど、もう決して逃げ出したりしない。そんな誓いを込めて太陽に掌をかざし、ぎゅっと握りしめた。
来栖くんの、曲を。
それを考えると頭にサッと黒い影がよぎったが、なんとかなる、なんとかすると心の中で呟く。
来栖くんを、より一層輝かせる曲。
早い段階から取り掛かるべきだろう。曲の方向性だけでも、本格的な夏が到来する前に決めておくのが良いはずだ。
(――だけど)
前向きに考えようとする一方、私の胸が黒いざわめきを起こす。
その原因はなんだったのか、それを突き止める前に、

「舞衣穂ちゃんっ」
「ひゃあっ!」

突然後ろから声をかけられ、私は思わず情けない声と共にそこにへたりこんだ。心臓がばくばくと早鐘を打つ。ふ、不意打ち。何奴、とは言わなかったけれど心境的にはそんな感じになりつつ後ろを振り返ると、驚いたような顔で音也くんが立っていた。

「えーと」

音也くんはどうしようかという風に頬をかき、膝を折って私と同じ目線にきた。

「驚かせてごめんね」
「あ、い、いや…」

数回深呼吸を繰り返して、鼓動を落ち着ける。音也くんはそれを待っていてくれた。かなり平常まで戻ったところで、ちらっと音也くんに目をやると、にこりと微笑まれる。
なんだか、こっちの気分まで明るくしてくれるような笑顔だなあ。

「え、と。それで、どうしたの?」
「うん。舞衣穂ちゃんなら、知ってるかもしれないけど」

そう前置きして、音也くんは一枚の紙をポケットから取り出した。渡されたそれを四つ折りの状態から開き、書かれている文字を読む。

「……えええっ」
「あ、知らなかった?」

驚く私に音也くんは悪戯っぽく笑った。

「こ、これ」
「うん。二人には内緒だよ?」

こくこくと頷くと、「それじゃ」と片手をあげて音也くんは去っていった。

「ど、どうしよ」

手元に残された紙をもう一度見る。そこには大きくこう書かれていた。

『来週の金曜日 那月と翔 誕生日パーティ開催のお知らせ!』





[*]← →[#]

bkm









top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -