うたプリ長編 | ナノ


24



五月末日。
俺と神前は、審査員である日向先生の前で、レコーディングテストを行おうとしていた。
ガラス張りの録音部屋に入り、しんと静まった空間の中、機材をセットする。ヘッドフォンをつけると、向こうで神前が同じようにヘッドフォンをつけて真剣に機器を操作していた。そして振り返って、日向先生に何事かを話している。その表情は、いつもの気弱な態度とはまるで別人だ。
俺たちは、やるだけのことはやった、よな。自分の掌に視線を落とす。その手をぎゅっと握り、ごくりと唾を飲み込んだ。
あれから、遅れた時間を取り戻すように俺たちは必死に努力した。後はただ、その成果を見せつけるだけだ。

どく、どく。

緊張で、胸の鼓動が収まらない。
一通り喋り終わったようで、神前がこっちを見た。視線が重なり、神前はマイクのスイッチに手を伸ばす。

『来栖くん、いけますか』
「――ああ」

俺が出した声は、思った以上に堅かった。情けねえ。神前も不安そうにぎゅっと眉を寄せて、それでも、柔らかなあの笑顔を見せた。
神前がそっと口を開く。

『来栖くんなら、大丈夫』

不思議だよな。
俺は深呼吸をして、「当たり前だろ!」と元気よく返した。
《大丈夫》――その言葉に、俺の心は羽が生えたように軽くなっていた。神前は『その調子、です』と言ってマイクを切る。
もう一度深く息を吸った。

しっかりしろ、来栖翔。
俺はうたのプリンスさまだ。
信じろ。自分を、そして神前を。

「大丈夫」

俺は目を閉じた。







[評価用紙 記入者:日向龍也

一ヶ月間お疲れさんだった。イントロが流れてきたときには驚いたぞ。元の曲とはずいぶん変えていたな。大胆な編曲だ。
だが、それがかえって曲の持つイメージをすっかり別のものにしてしまっていた。いい意味で、だぞ。
あの歌詞に別視点からの解釈を与え、曲を作り直すとは、やるじゃねえか。
正直、来栖に合う曲があるのかと気がかりだったんだが、編曲のおかげか、きちんと自分のものにできていた。技術的にはまだ不十分だが、しっかり魂がこもっていた。
神前も、よく来栖の特徴を知り、捉えられていた。完成には今一歩及ばない点があるにしろ、それに限りなく近い状態まで作り込まれている。
よくがんばった。文句なしに合格だ!]





「神前ーっ!!」

Bクラスから出ようとする彼女を捕まえて、先生にもらったこの紙を見せた。
一通り読んだ後、神前はとても嬉しそうに笑った。心満たされる、そんな笑顔だった。








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bkm









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