うたプリ長編 | ナノ


22



神前は泣いていた。

七海に扉を開けてもらって見た彼女の目は、赤かったのだ。そんな神前を見て頭の冷えた俺は申し訳なさに心がいっぱいになった。さっきまでとは比べ物にならないくらいの罪悪感が襲ってくる。
神前はこっちを見て、信じられないというふうに固まっていた。俺は七海に促されるまま一歩踏み出す。

「おさまったら、メールして」
「翔くん、頑張ってね」

そう言って部屋を出ていく二人に、「ありがとな」と礼を言う。扉が静かに閉められた。

「…神前」

そっと近付き、おそるおそるそう呼ぶと、神前は泣きはらした目をぐいぐいとぬぐい、伏せた。もう一度「神前」と呼ぶと、ためらいがちにそっと顔をあげる。すかさず目を合わせると、彼女の瞳がゆらりと揺れた。


「「ごめん」なさい」


思い切り頭を下げてそう言ったところに神前の声も重なる、「え?」と俺は顔を上げた。すると、同じようにきょとんとした赤い目と再び視線が合う。

「…なんでお前が謝るんだよ」
「え、え…と。く、来栖くん、こそ」

「悪かったのは。私、だよ」そう告げる神前に、思わず「はあ?」とあきれたような声を出してしまう。その声の大きさに、神前は身をすくませた。

「いや、どう考えても俺が悪かった」
「いえっ、私が、何にも考えてなくて」
「いやいや、俺こそお前のこと、考えてやれなかった」
「いえいえっ、私は、来栖くんの、ストレスになっちゃって」

その言葉に、胸を突き刺されたような感覚を覚えた。『ストレス』――確かに俺はイライラが溜まっていた。もしかして神前はそれが自分のせいだと思っているのか?いや、確かに一部そうだったかもしれない。曖昧な笑みしか浮かべない神前に、ぎゅっと眉根を寄せたことも、確かにあった。だけどそれは、あくまでも俺が勝手に苛ついていただけだ。

俺が黙ったのを見て、神前は再度「だから、ごめんなさい」と頭を下げた。
その表情は、ほとんど泣き出しそうだった。
そういえば俺は、こいつのこんな顔ばかり見てきた気がする。
違う、と俺は強く首を振った。

「全部、俺の身勝手さが悪かったんだ。お前は悪くない」
「でも」
「だから、」

反論しかけた神前をさえぎって、深く頭を下げた。

「本当に、すまなかった」
「…来栖、くん…」
「こんな、俺だけど」

そして顔を上げて、まっすぐ神前を見つめた。

「だけど、まだ俺は神前と一緒に音楽をしたい。…もう一度、俺と組んでくれ」

すると神前は驚きとためらいに瞳を揺らし、また一つ涙をこぼして、そしてくしゃりと顔を微笑ませた。

「…はい」







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