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「そんなことがあったの」
「辛かったね、舞衣穂ちゃん」
二人は部屋に入れてくれ、私の涙が収まるまで待ってくれた。ぽつぽつと経緯を話した私に注がれる優しい言葉。
しかし、ふるふると首を横に振る。
「い、え。一番辛かったのは、…きっと、来栖くん」
うまく歌えないし、パートナーはうじうじするし。彼の心が沸点に達していたっておかしくはないと、気づくべきだった。
「ん…まあ、どっちも辛かったってのが正しいんじゃないかな」
「…そう、かな」
「舞衣穂」
素早くケータイを操作して閉じた後、ともちゃんは真剣な表情でぎゅっと私の手を握った。
「確かに、あんたはパートナー失格だった」
「……――っ」
「と、ともちゃん!?」
ぐさりと、その言葉が胸に突き刺さる。自分で思っているのと、他人に言われるのでは、まったく重みが違う。
再び涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえ、私はうなずいた。
「だけど、何がいけなかったのか、今なら分かるでしょ?あんたはパートナーの役目を果たせなかった。けど、それに気づいた今、次からはちゃんとアドバイスできるはず」
――次?次なんて、あるのかな。パートナーを解消されたって、おかしくない。
そう言うとともちゃんは目を丸くして、
「バカね、こんなことでそんなことしないよ、あいつは」
「翔くんね、舞衣穂ちゃんがいないときでも、『あいつはすげえ』って言ってるらしいよ」
「……え?」
春歌ちゃんの言葉に間抜けな声を出すと、彼女はにこりと笑んだ。
「だから、大丈夫。きっと翔くんも今頃、すごく後悔してるよ」
「そうそう。謝ってきたら、ちゃんと許してやってね」
二人はそう言うけれど、私はどうもそんな風には思えなかった。
――でも、もし。"次" があるのなら。
私はもう、怯えない。来栖くんのために、気づいたことは、全部言う。対人恐怖なんて忘れるくらいに、よい曲を作るために専念するんだ。
そう、決意する。
コンコン。
突然ドアがノックされる。私は泣きはらした目を誰にも見られたくなかったから少し慌てたけど、ともちゃんはにやりと笑って「来たね」と言い、春歌ちゃんはドアを開けに行った。
「…よ」
「く、るす、くん」
息を切らしながらまっすぐこちらを見つめたのは、他もない来栖くんその人だった。
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