うたプリ長編 | ナノ


20



最低だ。
神前がいなくなった部屋で、一人黙々と練習道具を片づける。前に録ったテープが出てきて、たまらずベッドに投げつけた。テープは一回軽く跳ね、そのまま布団に横たわる。

『…ごめ、…なさ、い…っ』

あの声が耳にこびりついて離れない。あいつが立っていた辺りには、数カ所に水滴が染みていた。そっとそれをなぞる。まだ少し湿っていた。
俺は、最低だ。

「…くそっ」

ガン、と机に拳を降ろす。それでも、気分はちっともすっきりしない。むしろ痛みによってさらにイライラが増した。
わかっている。悪いのは俺だ。あいつが傷つくと分かっていて、それでもなおきつい言葉を言い放った。むしろ、傷ついてしまえばいいとさえ、思った。

「――――っ」

今度は、自分の頭を殴りつけた。がんがんと反響する痛み。それでもきっと、本当につらいのは神前だった。
あいつは、優しすぎるのだ。だから、あたりさわりのない指摘しかしてこなかった。優しすぎることに何も悪意は無く、つまりあいつは悪くない。ただ俺が我慢できず、怒鳴ってしまっただけ。俺が悪いのだ。

謝らなくちゃいけない。でも、どうやって。あんなにひどい言葉を浴びせておいて、あわせる顔なんて持ち合わせちゃいない。

「…これ、あいつの」

そんなもやもやした気持ちの中でふと目に入ったのは、机の上のファイル。水色のそれは、いつも神前が大切に抱えていたもの。中に楽譜が入っているのを見つけて、そっと出してみた。
そして俺は目を見張る。それは当然課題曲で、丸っこい字で小さく、あらゆるフレーズに書き込みがしてあった。俺が気づいていなかったような所まで、細かく。
そして、題名の上には少し大きく、『次こそはちゃんと言う』と書かれていた。

やっぱり、悪いのは俺だった。

神前の、困ったような顔が浮かんでくる。あいつを思い出すとき、浮かぶのはその顔だった。
俺はぐっと拳を握りしめた。ちゃんと、話そう。今度は素直にそう思えた。そして謝って、もう一度二人で1から始めよう。
例え、あいつが曲を変えたいといっても。俺は、ちゃんと聞いてやらなきゃいけない。
あいつは、口下手なんだ。引っ込み思案の、優しい奴なんだ。
それを再認識し、フォローしなくちゃいけないのだ。
誰より理解してやることが必要なのだ。
俺は、神前のパートナーだから。
俺が望んだ関係なのだから。
心を決め、神前を探しに行こうとしたとき、ケータイに誰かからメールが届いた。






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bkm









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