うたプリ長編 | ナノ


18



イライラする。
俺は無性に手に持った歌詞カードを握りつぶしたくなる衝動にかられながら、歌い終わった喉を軽く整えて神前へ尋ねる。

「今の、どうだった?」
「へ、あ、えっと、…サビへの、盛り上がりが…」
「…だよな。くそっ、もう一回だ」

曲を決めて練習を始めてから、二週間がたった。レコーディングテストまで、残り日数がだいたい半分だ。それでも俺はまだ、この曲をモノにできないでいた。何度かレコーデイングルームを使って実際に録ってみたけど、どうも満足いくように歌えない。

「あの。…あ、あせらずに」
「わかってる!いいからかけてくれ」
「は、はい」

イライラしたまま、歌いだしを頭の中でなぞる。初めから声を張っていくのが正解、のはずだ。音程は、リズムはこんな感じで。そう、イメージはできている。できている、はずなのに――
流れ始めた前奏に小さく拍子を取りながら、大きく息を吸い込んだ。

ワンフレーズ。

――ああ、駄目だ。あくまでも落ち着いて音程をコントロールしなくちゃいけねえのに、感情がハシりすぎた。既に失敗を悟り、歌うのをやめてヘッドフォンを耳から外す。

みじめだな、俺。

そんな俺を見て、神前は慌てて曲を止める。

「あ、あの。来栖、くん」
「…なんだよ」
「…っ、い、いえ」

眉をハの字に下げて、ぷるぶると首を振る彼女に、更にイライラが募った。なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。
俺が無様に失敗するごとに、神前はその目で俺を見てくる。何かを言いたそうで、でも言いたくなさそうな、矛盾をはらんだ瞳。

――こいつの伝えたいことは、なんとなく察しがついている。
だから、神前の目を見ると、余計にもどかしくなるのだ。

「…いい加減にしろよ」

自分でも驚くくらい低い声が出た。神前は身をすくませ、怯えた表情を俺に向ける。それはまるで出会ったあの時のような、不安そうな顔。
しかしその表情は、火がついてしまったこの怒りに、油を注ぐ以外の何物でもない。
ぎり、と奥歯をかみしめる。そして俺は、ずっと胸に溜めていた不満を爆発させ、言葉の槍にして神前へと向けた。
それがどれだけ鋭いものだったかも知らないで。

「言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ!びくびくしてるだけじゃ相手に伝わらねーってことくらい、わかってんだろうが!」
「……っ」

きっと睨みつけると、神前は顔を伏せた。一瞬ちらと見た瞳は潤んでいて、泣かせてしまったかもしれない。
その事実が俺を少し冷静にしてくれたとき、神前は絞り出すように声を出した。

「…ごめ、…なさ…い」

それを言うのがやっとのようだった。
ぽた、ぽたっ。
水滴の後を2つ残し、神前は静かに部屋から出ていった。
少しの間、そこに立ちつくす。そうする以外にできることは無かった。歌も歌えず、パートナーに八つ当たりして、傷つけて。そんな俺に何ができると言うんだよ?

「…最低だ、俺」

吐き捨てるように言ったその言葉。そうとわかっていても八つ当たりするのを止められなかったなんて、俺はパートナー失格だ。

きっと今の俺は、王子様なんて呼べやしない。

悔み、怒り、惑い、そして罪の意識。複雑に気持ちが絡み合い、俺はくしゃりと歌詞カードを握りつぶした。






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bkm









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