うたプリ長編 | ナノ


16



「じゃあ、かけるぞ」
「は、はい」

放課後、日向先生に曲をもらった俺は神前を呼んで自分の部屋に帰ってきた。那月はくじ引きで決まったパートナーのもとへ行っていて、ここにはいない。
お互いにどきどきと胸がはやっていた。新しい曲をもらったこの気持ち。期待と不安がないまぜとなるこの感覚。
一曲を自分のものにする大変さは、神前はピアノ、俺はヴァイオリンからよく理解しているはずだ。
だからこそ、どきどきする。
再生ボタンを押すと、早速一曲目が流れてきた。
うーん…
しかしこれは違うなと、それはおぼろげながら感じる。

「うーん…」

神前も目を閉じて聞きながら、同じように首を傾げている。
この曲の印象は、「冷徹な男の静かな激情」という感じ。俺が冷徹っていうのはありえないから、ナシだな。

「これは…い、い…一ノ瀬…さん、ぽいですね」
「ああ、確かに」

神前のそんな言葉に納得して、次の曲へ。

「おっ」

これはなかなかに俺好みの曲だった。激しいアップテンポから始まる元気いっぱいな曲。歌詞が…少々大人っぽいが、それでもピッチとノリが断然歌いやすそうだ。
しかし神前はといえば、それでも首を傾げている。

「これ、いいと思うんだけど」
「え。…あ、は、はい」

びっくりしたように頷いた神前は、その後で「で、でも」と続ける。

「これは、神宮寺さん?や、音也くんに、ぴったりかなあと」
「俺様も歌えるぞ」
「わ、はい…もちろん」

煮え切らない表情の神前だが、とにかく最後の曲へ。
落ち着いた雰囲気だ。ピアノソロから始まる、静かなバラード。俺には似合わねえな、と早々に判断する。
自分に一番似合う曲。それが元気な曲だというのは、俺自身も友人たちも共通する見解なのだ。だから熱い歌が好きだし、歌いたいと思う。

「………うん」

しかし驚いたことに、神前はこの曲を頷きながら聞いていた。指でとん、とん、とリズムを刻んでいる。
単純にこの曲が好きなのか、それとも。

「これは那月とか、聖川っぽいよな」

感じた不安な気持ちに先手を打って、そう言っておく。神前は「そう…ですね。で、でも。…」そう呟くが、後が続かない。
でも、なんだよ?
そこに生まれたのは若干の陰りといら立ちだったのかもしれない。
ゆっくりと、切ないけれど真っ直ぐな恋を唄った歌が終わる。
停止ボタンをかちりと押してから、俺は問いかけた。

「で、どれにする?」





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bkm









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