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「君たちが入学して、一週間が過ぎた。昼のくじ引きで、全員がパートナーを確保できただろう」
帰りのHR(と、私は呼んでいる)で担任の先生が、そう話を切りだした。
「そこで、学園側は次の目標を設定した。まずはこの紙を見てくれ」
配布されたプリントには、『第一回レコーディングテスト要項』と書かれている。
「5月…つまり来月末に、レコーディングテストを行う。ちょっと目を通してみてくれ」
私は大人しくそれに従い、視線を落とした。ええと…。プリントの一番上にある項目を黙読する。
『目的:
パートナーのことをよく知ること
レコーディングに慣れること 』
「何をしてもらうかと言えば、話は簡単だ。パートナーと二人で、一曲を仕上げてもらう。といっても、一から作れというわけじゃない。それは三月に向けてやることだ。曲は、予めこちらで用意したものから選んでもらう」
「その曲はどこで聞けるんスか?」
一人の男子が手を挙げて訪ねた。先生は眼鏡を中指で押し上げて説明を続ける。
「今日提出のパートナー届け出用紙があるだろう。それを持ってきたときにテープを渡す。再生機器は各寮部屋に備わっているはずだ」
パートナー届け出用紙は入学から一週間後、つまり今日出しなさいと言われていた。それはこのためだったのかと私は納得する。
私たちの場合は、来栖くんが出してくれることになっているから、任せることにしよう。
「それから、ここが重要だ。課題曲のうち、どれも自分に合わない奴もいるだろう。そのときは、作曲家コースの奴が曲をいじっても構わないとする。ただし、歌詞を変えてはならない」
つまりそれは、と私は思う。編曲ということだよね。ならば私も、来栖くんの役に立てるかもしれない。
「練習でレコーディングルームを使用するのは構わないが、必ず月宮先生まで申し込んでくれ。質問はあるか?」
「あの…もし不合格だったら?」
おそるおそる、私の隣の席の子が手を挙げて尋ねた。
先生はにやりと笑んで口を開く。
「その場合は、夏の合宿参加権が無くなるだけだ」
ええー、とどよめくみなさん。夏には合宿があるのか。音楽学校で合宿って、一体何をするのだろう。楽しみなようで、人付き合いの苦手な私は同時に不安も覚えてしまう。それでも、来栖くんたちと一緒なら、楽しめそうかもしれない。
うん、頑張ろう。
一通りざわめきが収まるのを待って、先生は名簿表にさっきのプリントを挟みながら言った。
「それじゃ、各自合格に向けて頑張るように。号令」
「きりーつ、れいっ」
みんながざわざわとしながら放課後を迎えた。私はとりあえず席に座り直す。
来栖くんが来るまで、待っていよう。
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bkm
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