うたプリ長編 | ナノ


14



食堂で自分たちの昼飯を確保し、席に座る。すると神前たちが丁度入ってきたので、手を挙げて場所を知らせると、渋谷が気づいて大きくうなずいた。そして三人で列に並ぶ。

「あの二人、クラスにいないと思ったら、舞衣穂ちゃんを誘ってたんだね」
「まいちゃんも嬉しそうですね〜」

音也と那月のそんな会話にどこか違和感を覚えていると、三人がやってきた。それを見て、俺は目を見張る。

「え、神前お前そんなに食うの?」
「え、あ、は、はい」

神前が持っている食事の量は、ふつうの女子の二倍ほどもある。見た目は細身なのに、意外と食うんだなと見ていると、神前は小さく慌てた。

「や、あの、昨日から何も食べてなくて…」

だから、お腹が空いていまして。
彼女の言葉を理解したとき、自然と言葉が出てきた。

「丸一日食ってねえのか!?」
「…ダイエットでもしているんですか?」
「レディには必要ないと思うよ」
「体に悪いぞ、神前」

それは他の奴らも同じだったらしく、口々に意見する。つーか、何かみんなが神前と仲良くなっている気がするんだけど。
神前はまずどれに言葉を返そうかと狼狽える。狼狽える間に腹の虫が大きく鳴いて、泣き出しそうな表情になった。

「まずは食べてからだね」
「お腹の音も可愛いです〜」
「は、はぅっ…いただきます…」

音也の声を聞き入れ、神前は手を合わせた後パンの袋を破った。さおとメロンパンだ。
渋谷が苦笑いをしながら、代わりに説明する。

「さっき聞いたんだけど、舞衣穂は極度の方向音痴らしいよ」
「方向音痴?」
「ご飯の時間は、ずーっと校舎を迷ってたらしいの。もっと早く気づけば良かった…」

七海の言葉に、神前はふるふると首を振った。
「なるほどな」と小さく聖川が頷く。俺としても、なるほどな、だ。
だからあの日神前は昼時だというのに、あんな辺鄙な部屋にいたのだ。そしてあんなに腹を空かせていたのだ。
ぱくり。パンのかけらを飲み込んだのを見て、七海が拳を握って「でも」と言う。

「これからは迎えに行くから、一緒に来ようね。舞衣穂ちゃん」
「…え?…ええ、そんな…!」
「変な遠慮されて、アンタが倒れる方が困るよ」

しばらくわたわたと慌てた神前だったが、二人の笑顔を見て、ぺこりと頭を下げた。

「よ。…よろしく、です」
「俺らも、ちゃんと助けるからさ。頼れよ、神前」
「わ、あ、ありがとう、来栖くん」

ぽん、と頭に手をおいて告げると、あの困ったような顔ではなく、明るい笑みを浮かべていた。
それがあまりにも綺麗だったから少し照れてしまって、「そ、それ食べたらちょっと来い」とぶっきらぼうな言い方になってしまった。

「な、なにか?」
「ああ…俺の歌を聞いてほしくてさ。まだお前の前で歌ったこと、無いし」
「あ、はい」

うなずく彼女はいつも通りで、さっき感じた変な気持ちはきっと錯覚だろうと自分を落ち着かせた。





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