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昼休み。昼食も取り終えた私は一足先にクラスにもどり、何をするでもなく時間を持て余していた。自分でも仏頂面だと思うこの顔のために、縁あって友人となった彼ら以外に話しかけてくる人もいませんし。
その方が気楽だ、と思います。
しかし他人と過ごすことを拒むほど、自分に情が欠落しているとは思いません。――不覚だけれど、友人の騒ぐあの空間はとても居心地が良い。
交流は不得手だが、嫌いではないのです。
「あああ、あのっ、あのぅっ」
そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。あまりに予想外だったもので驚いて振り返ると、そこにいたのは先日知り合った翔のパートナー。持っている手帳と私とをよく見比べて、
「いっと…ちが、いち、一ノ瀬、さん。…です?」
「…ええ、一ノ瀬ですが」
そう答えてやると、あからさまにほっとした表情になる彼女は確か神前という名だったか。
「何の用ですか」
「へっ、あ、えっと…く、くる、来栖くんはいますかっ」
「翔ならグラウンドでサッカーをしています。さっき食堂でそう言っていたでしょう」
「食堂…?」
戸惑いを見せる彼女に、違和感。この少女は友人カテゴリに属しているため食事を共にしていると思うのですが、そういえばさっきはいなかったような気もします。影が薄い、とはこのようなタイプを差すのでしょうか。
よくわかりませんが、彼女に通じていないところをみると先程食堂で会ってはいないのでしょう。
「いえ。何でもありません。とにかく、翔は外ですよ」
窓の外を指さしてやると、怪訝な顔から落胆の色を発するようになる。口より顔の方が雄弁そうですね。
ほぁ、とおかしなため息をついた彼女に言葉を重ねる。
「伝えることがあるならば、承りますが」
「あ、えと、ええっと…」
私の申し出が予想外だったのか、彼女はわたわたと伝言を考え始めました。少しして結論が出たようで、どこか申し訳なさそうな目を向けてきます。
「…やっぱいい、…です。すみま、せん」
「構いませんよ。その方が楽ですし」
そう言い放って見た彼女の瞳に宿る色は、どこかで見覚えがありました。
…ああ、わかりました。
「あなたは、私に似ていますね」
交わりを欲するも恐れ、消極的の底を歩く人生を送る臆病な人間。
首を傾げる彼女との、本質的な似かより、そして絶対的な差をも、このときに悟ったのでした。
『一ノ瀬トキヤ むっつり。HAYATOに似てる』
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bkm
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