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「ひゃ」
「わ、危ない」
ぽす。そんな音をたてて、僕はこけそうになっていた女の子を無事キャッチした。残念ながら鞄は放り投げた状態になってしまったけれど…
「あああ、ありがとうございますっ」
「いえいえ〜。お怪我はありませんかぁ?」
どもりつつも深く頭を下げたその子に、僕は笑顔を向けた。「大丈夫、です」と言って顔を上げた彼女は、見覚えのある子。
「あぁ、舞衣穂ちゃんじゃないですかぁ。こんにちは〜」
「へ、…あ!」
気づいてくれたみたい。こうして二人で話すのは初めてだ。どんな子なんだろう。
「あ、えと、…えーっと。……て、手帳…」
「手帳?」
見ると、僕の足下にページを開いた状態で手帳が落ちていた。拾うついでに見えてしまったページには、僕を含めたお友達の名前が書いてある。翔ちゃんの筆跡だ。
「あ、そ、それです!」
『四ノ宮那月 身長のでかいメガネ。黄色い。※俺様のルームメイト』
僕の項はそんな風に書かれていた。これでは単なる特徴で、人柄を示せないじゃないですか翔ちゃん。
「お菓子作りが趣味ですよ〜」
「えっ?」
「あ、僕はコレです。しのみやなつき。なっちゃんと呼んでくださいねぇ」
「へ、あ、えっと」
舞衣穂ちゃんは目を白黒させている。そのまま数分間待っていると、ようやく頭の処理が追いついたのか突然頷き、
「なっちゃん、さん」
と呼んだ。
「違います、なっちゃん、ですよ〜」
「な、なっちゃん、……さん」
最後にどうしても「さん」をつけてしまう彼女があんまり可愛かったので、僕はそれでもいいかなぁと思いました。
「まいちゃん、可愛いですっ」
「ひぁぁぁあ!?」
たくさんぎゅうってした後、クラスに帰るというまいちゃんを送ってあげました。
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bkm
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