うたプリ長編 | ナノ


09



いつも練習をさせてもらっている部屋でピアノを弾いていると、突然誰かが入ってきた気配があった。
振り返ってみれば、見覚えのある女子生徒がきょどきょどと立っている。確か、来栖のパートナーの神前だ。

「じゃ、邪魔してすみません!失礼しましたっ」
「ま、待て神前」

慌てて引き止めると、彼女は「え?」と不思議そうな顔をする。そのままじっと、こちらが照れるくらい見つめられ、「あっ」と小さく声を上げたと思うと、かばんから急いで手帳を取り出した。
こぜわしい奴だ。

「ええっと…ひ、聖川さん」
「ああ」

そういえば音也も顔と名前をようやく覚えてもらえたと苦笑していたな。

「聖川さん、お邪魔してすみませんでした。ではっ」
「いや、だから待て」

名前を思い出してもらうために呼び止めたわけではないと言うと、逃げ腰だった体をこちらに向けてくれた。

「どうしてここに?」

と問うと、神前は恥ずかしそうに、

「えと…教室移動先がわかんなくて迷っていたら、綺麗なピアノが聞こえてきまして。…つい」
「確かに、この学園には特別教室が多いからな」

俺の家も大きいことには大きかったが、使う部屋が限られていた。しかしこの校舎を自由に行き来しなければ授業も受けられないのだ。

「よし、俺が送っていこう。どこへ行きたいんだ?」
「えっ、い、いやそんな、大丈夫、ですっ」
「気にするな。俺も次は教室移動だ」

「では…」と告げる彼女の声を聞きながらピアノを片づけ、連れ立って廊下に出る。

「本当に素敵だったのに、中断させてしまってすみません」
「いや、構わない。それより今度は神前のピアノも聞いてみたいものだ」
「そ、それは。…えーと」

『聖川真斗 青いぱっつん』

目的地は、すぐ向かいの教室だった。





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