うたプリ長編 | ナノ


06



「あれ、翔ちゃん。帰ってきたんですかぁ」
「おチビちゃんがナンパなんて…やるじゃないか」
「クッキーをどけろ那月、んでもってレンは黙れ」

見覚えのある食堂に入ると、来栖くんは二枚目さんばかりが座っている席へまっすぐ歩いて行った。当然注目を浴びる。さっと顔色が変化したことは自覚していた。赤色か青色か、それはわからないけど。
女の子も二人座っている。私なんかとは比べ物にならないくらい可愛い。
こんなに多くの、しかも美形の視線を浴びて、小心者根性が染み付いた私は今すぐ帰りたくなる。人見知りスキルが発動し、来栖くんの手を外してその後ろに隠れた。

ぐるる〜

「あ…」

またもやお腹が鳴る。空腹は限界に近かった。朝御飯も食べられなかったのだ。しかしこのタイミングで鳴るなんて、ただもう恥ずかしさで顔を下に伏せることしかできなかった。ああ、穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。

「神前、何かメシ貰ってこい。俺が説明しとくから」
「あ、はいっ」

来栖くんの声に、逃げるようにして私はその場を去った。

食べられそうなものを選び、近寄りがたいオーラを放つ美形軍団に戻ってくると、早速女子二人が話しかけてきた。

「アタシは渋谷友千香。ともちゃんでいいよ」
「わたしは七海春歌です。作曲家コースのお友達ができて嬉しいなぁ。よろしくね、舞衣穂ちゃん!」

二人の笑顔はそれはもうまばゆくて可愛くて、私は目を白黒させながらどうにか「よ、よろしくお願い、しま、す」と言い切ることができた。

しどろもどろ。
なんて私にぴったりの言葉なんだろうか。

ともちゃんさん(あれ、春歌さんだったかな)が男の子たちにを向いて手招きすると、待ってましたとばかりに赤い男の子が飛び出してきた。

「はいはーい!俺は一十木音也!よろしく!」
「聖川真斗だ。ピアノが得意と聞いた。よろしくな」
「四ノ宮那月です〜。とっても可愛いですねぇ」
「一ノ瀬トキヤです。翔をよろしくお願いします」
「神宮寺レンだよ。よろしくね可愛らしいレディ」

ああ、今にも倒れそうだ。もともと人の顔と名前を覚えるのは得意でない上に、こうも一気に情報が押し寄せると、飽和状態になる。これ以上入らなくなるのだ。

「あ、えと、えと、イットキヤさん?神宮寺…那月さん?あ、あれ?」
「混ざってる。神前、混ざってるから」

あわあわと混乱を隠せない私に来栖くんがそっと近づき、「手帳貸せ」と言うので急いで渡すと、さらさらと何かを書き込んだ。

「ほらよ。ゆっくり覚えればいいからな」
「あ、あり、がとう」

感謝の言葉もまともに言えない私が情けない。
手帳に書き込まれていたのは、さっき聞いた名前と各人の特徴と思われるメモ書きだった。

「翔、なかなかやりますね」
「おチビちゃんにしては気が利くじゃないか」
「誰がチビだっ!」
「翔ちゃんかわいいですっ!」
「だあああっ!やめろ那月ぃっ!」

金髪の背が高い人に抱きつかれた来栖くんが叫ぶ。そしてそんな二人を見て周りのみんなが笑みを漏らした。

もし、この集団と共に過ごすことを許されるならば。
それは、とても楽しい日々になる気がした。
来栖くんたちのやりとりがあんまり面白かったので、ついくすりと笑うと、ともちゃんさんと春歌さんと目があってにこりと笑みを浮かべた。





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