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05
「はい、喜んで」
そう答えてとった来栖くんの手は私より少し大きくて、少し固かった。
彼がいきなり入ってきたときは本当に驚いた。誰もいないと思っていただけに。そして夢中で弾いていただけに。そして驚いただけじゃなく、恥ずかしかった。普段から人と接することがどうも苦手な私は、人がそこにいるというだけであがってしまう性格だ。
けど、こんな私の演奏を、来栖くんは「感動した」と言ってくれた。
嬉しかった。お世辞でも何でもないと、彼の目が教えてくれたから。
だから私は、この人のために曲を作りたいと、そう思ったんだ。
座った状態から見上げると、眩しいくらいの笑顔がふってくる。
恋愛は禁止だとわかっていながらも、ついどきっとしたとき。
ぐーきゅるるー
まるで古典的な音がその場に響いた。
「…今の、神前か?」
「あ…ぅ……」
恥ずかしさでまともに言葉が出てこない。そうでなくとも普段から話すのは苦手なのに、さらにしどろもどろになってしまう。
「昼飯は?」
「ま、まだ……」
「マジかよ。じゃあ早く食わねえとな」
離すタイミングがわからず繋いだままの手を引っ張って、来栖くんは私を立たせた。
するとじっとしたまま動かなくなる。…どうしたのかな。
「……お前、何センチ?」
「え?」
「身長だよ。いくつだ?」
「あ、えと、163…」
「………………」
突然来栖くんが黙り込んだ。私はすっかり慌ててしまう。何かマズかったかな。悪いことしちゃったかな。
「行くぞ」
「わっ」
それから来栖くんは顔を前に向け、少し早歩きで進み出した。私も急いでついて行く。
「あ、あの、来栖くん」
ちょっと早いです、と言おうとしたら、「神前」と声がかかった。
「俺様のことチビって言うんじゃねえぞ。いいな」
「は、はいっ」
その言葉の意味はよくわからなかったけど、とりあえず頷いておく。
結局歩くスピードを落としてもらい損ね、私はかなり頑張って歩いていった。
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