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03
那月のクッキーから逃れて、俺は人気の薄い校舎裏へとやってきていた。学校の中なのに森があるというこの違和感にも大分慣れてきた。まったく、馬鹿でかい学園だぜ。
「パートナー…か」
歩きながら俺は呟いた。
できれば余った生徒によるくじ引きよりは自分で選びたいものだ。一年間一緒にやっていくんだし、ちゃんと音楽性っつーかなんつーか、気の合う相手を見つけたい。
トキヤなんかは早々と諦めていたけど。
その点で七海は凄かった。あいつの作る曲はどんなリズムでも刻めてしまう。音也でも、聖川でも、那月でも、レンでも、トキヤでも、そして俺でも。パートナーが渋谷に決まっていなければ、俺が頼みたいくらいだった。
「どーすっかなぁ…」
まだ昼休みは終わっていない。どうせなら、まだ行ったことのない場所を探検してみようと角を曲がった。
ポーン。
すると耳に飛び込んできたのは、済んだピアノの音色。
「音…?なんでだ、どこから」
ポーン。ポーン。
試しに鍵盤を弾いているような遠慮がちなその音は、二、三度鳴らされた後、ぱたりと止まった。
聞き間違いか?それとも…
音の主を確かめようと、きょろきょろと見回しながら歩く。
それはきっと、あの一音があまりにも綺麗だったから。
――ド レ ミ ファ ミ レ ド
「……上かっ!」
しばらくして再び耳に届いた旋律は、この校舎の上から聞こえてきたようだ。俺は階段目指して走り出した。
――ミ ファ ソ ラ ソ ファ ミ
一足飛ばしに駆け上がると、早くも息が切れ出す。体力のないこの体が恨めしい。
二階に着く。違う、まだ上だ。再び階段へ向かう。
――ド、ド、ド、ド
ああ、なんだったかな。この曲。あまりにも懐かしいメロディー。名前は確か、そう。
――ド レ ミ ファ ミ レ ド
「かえるのうた…」
三階まで上がってきた。ぜいぜいと呼吸が激しい。しかし、この階のはずだ。――どこだ?俺は壁に手をつきながら、さっきまで聞こえていた音の場所を頼りに探し回る。
「ここ、だな」
それらしき部屋の前に着いた。扉に手をかけ、すぐにでも奏者を確認しようとする。一曲終わったのだし、邪魔しても大丈夫だろう。
「……!」
そう思ったそのとき、止まっていた音は幾重にも重なって戻ってきて、再び曲を紡ぎ始めた。
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bkm
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