薄桜鬼長編 | ナノ


立ち止まるな、進め



夕方、討ち入りに加わる人員で最終確認を行った。そこには組長を含めた幹部のお歴々が、四人。組長、副長殿、沖田殿、永倉殿だ。そこまで大規模な会合ではないらしく、目標とする志士の人数もたったの五人ほどであった。

「だからといって、気を抜くな」

そこには、倒幕派に雇われた名の売れた剣豪が二人ほど混じっているらしい。自分はその名前を聞いたところで首を傾げるばかりだったが、周りの隊士たちがどよめいたのを見ればその凄さは伺い知れた。
会合場所となっているのは、町外れの小さな料亭だ。恐らく配置されているだろう見張りたちを欺くために、少人数をさらに四分割して四方から忍び寄る作戦だ。巡察と勘違いさせながら、包囲網を形成する。

「俺と平助、永倉は正面」

幹部三名で、一気に片を付ける。少なくとも二人が剣豪と交戦状態に入り、一人が残りを斬り伏せる。
副長はその後平隊士二名ずつを左右からの援護に割り当てなさった。三名の間を縫って正面から逃げ出そうとしたときには、四名で逃げ口を塞いで切り捨てる。

「それから、万一裏口から脱出された場合に備えて」

自分と沖田殿が、裏面を任された。裏口が見える陰に隠れ、人が出てきたらその後を尾行せよ、と。

「そいつが逃げ出す手引きをする奴と接触したら、斬れ」
「了解」

ちゃんとやれよ、と副長は沖田殿を睨みなさるが、沖田殿は飄々とした笑みでそれをかわした。

「まあ、土方さんたちが頑張ってくれれば僕たちは暇でいいんですけど」
「やるよ」

そのとき初めて、組長が発言しなさった。ちらりとこちらを見たかと思ったが気のせいだったようで、組長は沖田殿を向いておられる。

「そっちには、行かせねえ」
「ふーん、平助、すごいやる気だね」
「るせー」

沖田殿のにやにや笑いに組長は煩わしげに手を振った。

『お前は、女なんだから』

組長を見れば、あの声が蘇ってきた。
今日、手柄をあげればもしかすれば、組長も自分を認めてくださるかも知れぬ。
このまま顔も合わせられない状態が続くのは、嫌だった。

「それじゃ、そろそろ出発するぞ」

日暮れが過ぎ、夜の帷が降りてきていた。
畳においていた大小を取り上げ、腰に差す。浅葱色の羽織りに、たすき紐を締める。額宛てをぎゅっと結べば、心が引き締まる思いがした。

「石原ちゃん」
「…その呼び方はお止め下さい、沖田殿」

皆が去った後、最後に出発する自分と沖田殿が残された。ちゃん、など。自分には甚だ似合わぬ呼び名である。
沖田殿は猫のように目を細め、笑った。

「別にいいじゃない。君、女顔だし」
「…はあ…」
「煮え切らないなあ。それとも、本当は女だしって言った方がよかった?」

その言葉に、体が固まった。ぎり、と歯を食いしばる。

『お前は、女なんだから』

「…自分は」
「まあ、どうでもいいや。そろそろ僕らの番だし、行くよ」
「…はっ」

袖の袂に腕を突っ込んで、沖田殿は悠々と歩いていったので、自分も慌ててその後を追った。



立ち止まるな、進め





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