うたプリ中編 | ナノ


ふわふわ、



「好きだ、編子」
「わたしもだよ、翔ちゃん」

夢じゃないだろうか。
ふわふわと現実感のない思考の中で、目の前の少女への愛しさがただ積もってゆく。
恋愛禁止令なんて関係ねえ。俺は二人きりの寮部屋で、思い切り編子を抱きしめた。右手を上背に、左手を腰に。身長の同じ彼女を優しく、でも力いっぱいに包み込む。
女って、なんでこんなに柔らかいんだろうな。
しばらくそうして体を密着させ、感触を堪能した後、右手をそっと頬に寄せた。

「いいか?」

返事の代わりに編子は俺と目線を合わせ、そっと目をつぶった。
それを了承の合図と受け取り、俺も目を閉じ唇を近づけてゆく。
ちゅ、という音も何もない。柔らかな感触が唇に広がるが、端の方がもっと柔らかい気がする。

「ん…翔ちゃん、ずれてる…」
「あ、ああ」

緊張しすぎて外れてしまった。余裕を見せたいけど、ばくばくとうるさい心臓がそれを許さない。一度震える指先で編子の唇をなぞると、気持ちよかったのか「ぅん…」と声を漏らして再び目を閉じた。
可愛すぎるだろ。
いつもはもっと斜に構えた感じのする彼女だが、今ばかりは甘い気持ちを共有する一人の恋人である。
今度こそ。俺は途中まで目を開けて顔を近づけ、触れ合う直前で閉じた。

あらゆる血流がたぎってゆく。
ふわふわとした夢心地の中で、編子の唇の感触さえ確かではない。
感覚が欲しくて彼女の唇を舐める。編子は色っぽい吐息を吐いてこちらに寄りかかってきた。
ああ、ぞくぞくする。

「っは…」

息継ぎのためにいったん離すが、熱の消えた部分が寂しくて、またすぐに唇を押しつける。角度を変え、何度もその感触を欲して触れ合わせる。
俺、今一番幸せだ。
編子はどう思っているだろうか。
うっすらと目を開ければ、上気した顔で俺からのキスを必死に受け止めている。その表情にさらにそそられ、都合よく後ろにあったベッドに編子を座らせた。

「翔ちゃん…」
「編子…」

くいっと顎を持ち上げて、覆い被さるように口づける。そっと肩を押せば、たやすく編子は後ろに倒れた。
どこまでもいけそうな気がする。
舌を伸ばし、口内に進入させようとしたそのとき。

「翔ちゃ〜ん」

ふと那月の声が聞こえた。ばっと顔を上げ、周りを見回す。
例え那月でも、こういうのはバレたくない。

「翔ちゃ〜ん」
「なんだ、那月!」
「翔ちゃ〜ん」

返事をしても依然俺の名を連呼し続けるその声。
いいところだったのに。
そんなイライラが促進されて、俺は大声で叫んだ。

「うるせえ黙りやがれっ!!!」

そして俺は目を覚ました。思い切り怒鳴りながら布団をはいで目覚めた。
………………。

「あ、やっと起きましたねぇ。たくさん呼んだんですよ?」
「……………ああ」
「あれ、翔ちゃんって低血圧でしたっけ?大丈夫ですか?」
「……………ちょっと一人にしてくれ」

俺がそう懇願すると、既に制服に着替えていた那月は首を傾げ、「じゃあ、食堂で待ってますね〜」と部屋を出ていった。
抱きしめた枕には、涎が垂れている。

夢でよかったような、やっぱり残念なような。

確実にわかるのは、しばらくあいつを直視できねえだろうということ。
好きだと告げたあの唇を思い出し、俺は再び布団にもぐりこんだ。

ふわふわ、

最もタチの悪いことは、この夢が俺の願望そのままだってこと。

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2011.09.10






bkm



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