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どきどき、
「ベッドオッケー、風呂オッケー、その他諸々準備オッケー」
部屋で一人、指をさしながら確認していく。
「全てオッケー、体制万全」
時刻は午後八時。これから恋人である編子が来る予定なのだ。飯を作ってもらい、その後…
『俺たち、付き合って五年くらいたつよな』
『そだね』
『俺、明後日オフだからさ、明日から泊まりに来ねえ…か?』
『それは、どういう意味かな?』
今思えば、電話越しにお互いがお互いに緊張していた。
『…そろそろ我慢できなくなったって言ったら、来なくなるか?』
そう恐る恐る尋ねると、携帯の向こうで編子はふっと笑った。
『いいよ、行く。晩御飯も作ってあげるよ。明日だと八時半になっちゃうけど、いい?』
『お、おう!わかった!』
編子と付き合って五年。襲いかけたことは多々あれど、彼女の「二十歳」基準を守り続けた俺がようやく男気見せます。
ピンポーン
「入っていいぞー」
「久しぶり、翔ちゃん」
手をひらりとあげて、編子がやってきた。彼女の服装を描写する気にはなれない。それが彼氏の部屋に来る服かと言いたくなるからだ。
まあ、簡単に言えば、Tシャツと短パン。
「夏だし、冷やし中華でいい?」
「お、おう」
編子は同じシャイニング事務所に属し、階は違えど同じ寮に住んでいる。だから着替えてきたんだろうけど、なんというか、緩みすぎだ。
まあ、可愛いから許す。
よく見たら俺がやったTシャツだしな。
冷やし中華は素直においしかった。そう伝えるとVサインをして「ありがと」と言われる。
何かこいつ、すげー自然体。
今日なにするかとか、わかってんだよな?
「ごちそうさま」
「はい、お粗末さん」
量の違いもあって、俺たちは同時に食べ終わった。そのまま食器を片づけようとするので、「俺がやる」と奪い取った。
「編子は…先に風呂、使えよ」
「あ…う、うん」
風呂、という言葉に敏感に反応し、編子は少し赤くなる。昔からそうだ。余裕ぶってるけど、本当はすごく照れ屋で緊張しやすい。
「あ…上がった後は」
つられてこっちも赤くなりそうだ。
「そっちのベッドで、待ってろ」
頷いて風呂に向かったのを確認し、俺は洗い物に取りかかった。
◇◆◇◆◇◆◇
体を隅々まで洗って風呂から上がる。脱衣所にTシャツと短パンが残っているのはあいつのだよな。一体どんな格好で待っているのだろう。
「お、お待たせ」
余裕なんてない。トランクスだけ履いた状態で寝室に向かうと、編子がベッドに腰掛けて待っていた。
「は、早いね…」
「いや…」
その格好にくらくらしてしまう。大きめのYシャツは編子のふともも半分ほどまである。隠しきれない綺麗な足がすらりとのびていた。
どこで覚えた、そんな格好。
うわ、今すぐにでも押し倒したい。今日は理性を休ませてよいのだ。体の中心がうずく。俺はそっと近づき、キスをする。
「んぅ…っ」
「……はっ」
最初から余裕なんてない。噛みつくような荒いキスを示すように、二人の唇を唾液の糸が繋いだ。
「はぁっ、翔、ちゃ」
「翔って呼べよ、編子」
そっと肩を押すと、簡単に後ろに倒れる。覆い被さって二度目の口づけ。
「しょ、翔っ」
「今は、俺様だけを考えてろよ」
「んっ」
顎、首筋と唇をつたわせていく。ちゅうと強く吸い付けば、赤い痕が残った。
「み、見え…」
「見せるんだよ。…脱がすぞ」
「一々言わんでいいよ…」
じゃあ言わねえ、と俺はシャツの中に手を入れて、ちょっと苦労しつつも(編子には内緒だ)ブラだけを外す。
「え、しゃ、シャツは」
「ブラが大分胸を締め付けてたな…おっきくなった」
「だから、言わんでいいって…」
いつもよりもずっと顔を赤くし、目には恥じらいの涙まで浮かべている。
可愛いのなんの。
「編子、もっかい、キス…」
「んっ…」
三度目のキスは、軽く啄むように。
それでも一々反応してくれる編子が可愛くて。
ピンポンパンポン!
『Mr.ヒジリカワー!至急ミーの部屋まで来てくだサーイ』
「夢だああああーーー!!!」
全力で叫びながら、俺は目を覚ました。ねーよ、今のタイミングはねーよ。
「うおう、なにさ、どうした翔ちゃん」
「へ?」
ふと横を見てみると、耳を押さえた編子が丸椅子に座っていた。
どきどき、
夢だけじゃ終わらせない。
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2011.09.12
bkm
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