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ぽかぽか、
「いい眺めですなー」
「そうだな」
夢とも現実ともわからない。
気持ちいい陽気に包まれて、俺と編子はどこかの山の頂に座っていた。
遠くに見えるでかい建物は、恐らく早乙女学園。
ピクニック日和ということで、仕事の休みを利用して山を登ってきたのだ。
「まだお昼にはちょっと早いかな」
「そうだな」
「さっきと同じこと言ってるよ」
学園時代から変わらないむすっとした顔。俺は笑って帽子を編子に乗せた。
周りに人はいない。完全に俺たちだけの二人きりだ。
「久しぶりの休みなのにこんな近場で悪いな」
「そんなこと。一緒に出かけてくれるだけですごく嬉しいよ」
卒業後、多忙な日々を送っていた俺。女流作曲家として注目を集めている編子。住んでいるところは隣同士だが、会うこともままならず、ましてや休みが被るなんて奇跡に近いのだ。
「本当は、どこかゆっくり旅行に連れてってやりたかったんだけどな」
「気を使わなくていいって。それに、旅行なんていったら翔ちゃんが囲まれちゃって、気が休まりそうにないし」
一理ある。
自分で言うのもなんだが、俺は結構な人気を博していた。
「こうやって二人でのんびりできるだけで、私は幸せだよ」
そう言って笑う編子は、とても綺麗だった。見とれてしまったのを隠すように、俺は声をあげる。
「昨日の今頃は、生放送に出てたかな」
「私は新人に会ってたよ。翔ちゃんに負けず劣らずの容姿だった」
「んな!誰だそいつ!」
もし編子の気持ちが移ろったりしたら、俺は多分立ち直れない。
「可愛かったなー。学園の後輩らしくて、『編子さんの曲、いつもチェックしてます。大好きです!』ってさ」
「な、なん…」
焦って編子に体を寄せて、目をのぞき込む。
編子は、心底おかしそうに笑っていた。
「彼女、作曲家にも憧れてたんだって。いつか曲を自作したいって言ってたよ」
「お、女かよ…」
「ふふ、やきもち?」
「ばか、…そうだよ、悪いか」
「んーん、嬉しい」
手が伸ばされ、額の髪を弄ばれる。くすぐったい、と告げたら、男気見せなさい、と返ってきた。
柔らかい表情の編子を見ていたら、怒りとかは全て消えていく。
そっと体を前に倒して、触れるだけの軽いキスをする。
久しぶりに重ねた唇の感触は癖になりそうで、どうにかブレーキをかけて二度目を止めた。
「膝、借りるな」
「あ、うん」
かわりに、そのままぽてんと頭を編子の膝に乗せる。すごく柔らかくて気持ちいい。上から編子が頭をなでてくる、それも加味してだ。
「幸せ、だな」
「うん」
「子供ができたら、また来ような」
「こ、子供って」
編子の焦った声にしてやったりとほほえんで、俺はそのまま目を閉じた。
「おいおいおチビちゃん、大丈夫かい?」
「…レン…」
そして俺は目を覚ました。意識を失っていたのはわずか数分だと思う。一緒に教室移動をしていた二人に心配をかけたようだ。
弁当、食べ損ねたな…
「悪い、次の授業は保健室で寝とく。伝えておいてくれ」
「わかりました。お大事に」
今日は変な夢ばかり見てちっとも眠れやしない。
一時間分の睡眠を取ることにしよう。
「あいつの膝って、あんな感触なのかな…」
思いの通じた未来予想図は、今の俺には酷く残酷かつ美しいものであった。
ぽかぽか、
実現させたいからこその夢。
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捏造がデフォ。
2011.09.12
bkm
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