月曜日。
 地球を守るようにして周回する衛星の名前を冠するこの曜日は世間の人々から嫌われる傾向にあった。きっと今もツイッターを開けば迫りくる出勤や登校に嘆き、過ぎ行く週末に未練を隠しもしない呟きで溢れかえっていることだろう。日も月も空を仰げば毎日見ることが出来るというのに一体どこでこんなにも差がついてしまったのやら。まあ、かくいう僕も月曜日が嫌いな人間の内の一人であるわけだけれど。

 ドアの向こうからはバタバタと忙しない足音が聞こえてきた。ついでにアレがないコレがないだのと慌てているのがよく分かる音声を付属して。姉ちゃんの独り言は相変わらずうるさい。
 そんなことを思いながらぼんやりとしていたら、突如として目の前のドアがバン!と大きな音を立てた。
「あれ!?修哉!?」
 大きく開いた目をぱちくりとさせて、驚き顔の姉ちゃんがそこに立っていた。唐突過ぎて欺くのが間に合わなかったから多分僕も同じような顔をしてると思う。素っ頓狂なビックリ顔のまま二人、しばらくの硬直。先に沈黙を破ったのは姉ちゃんだった。
「えーっと……、もしかして、うるさかった?」
「え、あ、うん」
 気の聞いた言葉も思い付かなくって、曖昧に返事を返せば姉ちゃんはがっくりと項垂れた。そしてすぐにさっきとは打って変わって饒舌になって、それでもやっぱり慌てながら事情を説明してくる。説明というよりは言い訳に近いそれを要約すればつまり明日の学校の準備が忙しいとのこと。
「明日ね、体育があるんだ。だからどうやって荷物を詰めたらいいかなって」
 忙しいだの大変だのと口にするわりに口調は朗らかで、学校が楽しみで仕方がないという感情がよく伝わってきた。学校に行かない、というよりは行けない僕には到底理解出来ない感情だ。登校して、授業を受けて、下校する。そんなルーティーンに楽しみを見出だす事が出来るのはよほど酔狂な奴だけだろう。
 だけど姉ちゃんは酔狂じゃない。僕だって分かってるんだ。世の中の大勢の人が何を楽しみに学校へ行くのか。姉ちゃんがどうして月曜日を楽しみにしているのか。全部分かってる。
「姉ちゃん、ホントにシンタロー君の事が好きなんだね」
「へっ!?何で!?」
「だってさっきからシンタロー君の話ばっかりしてる」
 本当は目を背けていたい名前。大嫌いな名前。だけど姉ちゃんが大好きな名前。姉ちゃんの口からその名前がこぼれる度に僕は奥歯を噛み締めた。欺く余裕は戻ってきてたから悟られることはなかったけれど、嫌な気分になるのだけは止められない。
「だってあの子放っといたら何しでかすか分からないし、面倒見てあげなきゃって」
「でも嫌いじゃないんでしょ?」
「うん。だって楽しいから」
 姉ちゃんは学校が楽しみだと言う。アイツに会うのが待ち遠しくて仕方がないのだと言う。そうして満面の笑みを浮かべるのだ。

 だから僕は月曜日が大嫌いだった。


∴週末の夢から覚めたくなかった


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