頭の中も目の前も胃の中も肺の中も何もかもが真っ白になって、気がついたら叫んでいた。
「お疲れ様」
平身低頭、そろりと起き上がった俺をそっけない声が迎える。彼女は俺を一瞥だけすると、すぐに眼前のモニターに視線を戻した。
「お疲れ様っていうか、何もしてないんだけど……」
「知ってる。女の子に囲まれて、出来ないのにベイルアウトって叫んでるの面白かったよ」
「もしかしてさっきの労いも皮肉だったりした?」
軽口の応酬、けれどその視線がモニターを外れることはもうない。つられて俺も肩越しにモニターを覗き込む。見慣れた黒いスーツを映す画面端に浮かぶ無慈悲な1ポイントは容赦なく俺を責め立てた。
「……ごめん」
「謝る必要なんてないよ。予定通りだし」
「それはそれで悲しいんだけど?」
スピーカーから爆撃音が響いて、画面端に新たな1ポイントが付与される。二宮さんと犬飼先輩とひゃみさんの短い作戦会議を、まるで傍観者にでもなったように立ち聞いていた。俺が一人いなくなったところでさしたる問題もなく部隊は回る。女を斬れない攻撃手が自滅しようが、人を撃てない狙撃手がどこかに消えようが、冗談みたいに強いままだ。
「あっ、かすった」
不意に届く焦りの声。モニターの混戦は盛大に眉間に皺を寄せる二宮さんをアップで映し出している。
『もー、油断しないでくださいよ。辻ちゃんもういないんですから』
『していない。長期戦になる前に火力で押し込む。援護しろ』
『了解』
光で画面が見えない程の絨毯爆撃が始まる。天災のごとく地面が揺れるたび画面端のポイントも増えていく。慌ただしく状況を伝えるひゃみさんを手伝って、一段落着いた時には辺りはすっかり焼け野原と化していた。
「なんか懐かしいね、この感じ……」
「ゴリ押しの二宮とかって揶揄されてた頃思い出すね。……私達もいるのにって思ってた」
「あったねぇそんなこと。まぁ二宮さんは気にしてなかったみたいだけど」
ベイルアウト用のスペースからひょっこりと犬飼先輩が顔を出す。巻き込まれちゃったと先輩が肩をすくめたところで、試合終了の合図が鳴った。
「本当に気にしない人だよね、二宮さんは」
「……それ、俺へのフォローだったりする?」
「フォローっていうか、単なる事実かな。私だって、散々その鈍感にお世話になってきたわけだし」
「なぁにコソコソ話してるの?おれも混ぜてくれない?」
そうして昔話に浸りかけたところで作戦室の扉が開く。ついさっき焼け野原を作り出した本人は、いつものように何も気にせず俺達の晩御飯を奢る旨を話し始めた。
∴その鈍感に喝采を