※バレンタイン


 全くもってびっくりするほど重くて仕方がない。物理的にも精神的にも圧をかけた方が勝ちと言わんばかりの茶色の暴力。こんな一粒の菓子に想いを込めたところで、一体全体その内のどれだけが相手に伝わるというのだろう。綺麗に整形された小さなハート型のチョコレートを摘まんで隣の男の口に押し込んだ。
「どう?愛してるって味する?」
「するわけねぇだろ。どんな味だよソレ」
 バリバリと情け容赦無くどこかの誰かからの愛は噛み砕かれ、喉仏の上下と共に一孝の胃袋に収まった。そうしたらもう後は跡形もなく胃液に溶かされて、成分のほとんどを占めていたオレへの「愛してる」は別の男の身体の糧となる。まるで呪いだ。呪われるのがどっちかなんて知らないけど。
 別のチョコレートを食べようとしているところに割り込んで開いたままの口を塞いだ。舌を差し入れればこっちの口まで馬鹿みたいな甘さに侵食される。なんだかクラクラしてしまいそうだ。
「……こういう味がするんじゃない?」
「馬鹿じゃねぇの」
「バカだぜ!」
「そうだったなこの馬鹿野郎が」
 ピンク、赤、ピンク、ピンク、青。せっせとチョコレートを消費する一孝に寄り掛かって、包装紙を折り紙にしたりラッピングのリボンを繋げてあや取りをしたりしながら暇を潰す。それでも比喩表現無しに積み上がったチョコの山は中々減らない。
「つーかテメェ宛のチョコだろ。お前が食えよ」
「え〜、一孝に手渡されたやつもいっぱいあるじゃん」
「俺を配達業者か何かと勘違いしてる奴からのだけどな」
 ほらよと一通の手紙を渡される。ハートのシールで閉じられた白い封筒には大層可愛らしい文字で『伊勢崎くんへ』と書かれていた。封を破いて中身を取り出す。『ヒーローとして活躍している伊勢崎くんがカッコ良くて大好きです。頑張ってください。応援しています。』すっかり見飽きた文面。差出人の名前は無かった。
「ろくな見返りも求めずによくこんな面倒なことやれるよなー、女の子って」
「お前って存外クズだよな」
「デリカシーの無さなら一孝も良い勝負だろ?」
 個体の区別もつけられない茶色の集塊。このまま致死量に勝るとも劣らぬオレへの愛が籠ったチョコレートを食べ続けていたら、一孝の細胞は一つ残らずオレへの「愛してる」で支配されてしまうのではないだろうか。それはそれで一興だなとクスリと笑う。
「一孝愛してるぞー」
「ハイハイ愛してる愛してる」
「反応が雑!」
 黙れとばかりに大きめの手作りチョコを口に押し込まれた。ああもう、びっくりするほど甘ったるい。


∴アイラブユー廃棄工程


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