∴ノスタルジックな街並みをデートしない



※幸福理論発表前に書いたため本編との矛盾があります。



皆さんはじめまして。そんなことを言ったって一つも聞こえやしないのに私は言葉を発します。そんな私が見守る中央、シンタローは困ったように眉毛を下げながら、それでも笑っていました。いつだかにメカクシ団と名乗っていた人達はみんないい人そうで、それなら安心だ、と私はほっとして胸を撫で下ろしましす。シンタローはあたふたしながら、それでも懸命に言葉を繋ごうとしていました。おおよそ私の中のシンタロー像とは掛け離れた彼ですが、それでも、愛おしいのです。妹さんであるモモちゃんと携帯の中にいる青い女の子がシンタローにたわいのないことを言って困らせていました。私はそれを止めることはせずに、微笑ましいその光景を笑いながら眺めることにしています。今日はどうやらみんなで出かけるようです。シンタローが出かけるだなんて、三年前だったら心配で胃を痛めて、一年前だったら驚きで目を見開いたはずなのに、今はただ穏やかな気持ちで彼のことを見守ることができるのです。それはとてもとても嬉しいことだと思います。

きっと、私みたいな人を世の中ではストーカーと呼ぶのでしょう。誰にも見えない、誰にも気づかれない、そんな体で私は今日もシンタローのあとをパタパタとついていきます。足音なんて、鳴るはずないのにね。「あーあ、シンタロー何か面白いことしてくれないかなあ」わざとらしく、大きな声を出してみました。やっぱりと言うか当然と言うか、シンタローはこちらを向くこともないままに携帯を握りしめて輪の中にいます。嫉妬、とまではいかないだろうけど、少し胸が焦がれます。遠い人になっちゃったんだなって、私が自らそれを望んだというのに、今更都合が良いことなんて起こるはずないのに、もう一回、話したいなって思っちゃったりして。私って弱いな。幽霊になった後なのに、こんなにあるはずのない脳みそを掻き回して、出るはずのない涙を流してる。しょっぱい味はわかるのに、水滴は手の平に落ちることもない。悲しいな、とってもとっても悲しいな。でもシンタローは嬉しそうだから嬉しいな。やだなあ、なんか矛盾してるね。でも矛盾した存在なんだから矛盾してる方が自然なのかもね。ねえ、シンタローはどう思う?











てくてくてくてく、私は今、シンタローの隣を音も立てずに歩いています。メカクシ団のみなさんとは別れ、モモさんはお仕事に、青い女の子は節電のためにと携帯の電源を落としているので、事実上私とシンタローの二人っきりです。「なんだかデートみたいだね」くすくすと笑ってみても、下を向きながら歩くシンタローはこちらを向いてはくれません。ちょっと寂しいけど、もう慣れっこな私はシンタローの歩調に合わせて歩き続けます。それよりもよっぽど、後ろ後ろへと流れる高層ビル達の見慣れない景色のほうが私とシンタローの圧倒的な時間の差を笑っているようで嫌な感じがします。

「あのね、シンタローっ」

寂しさを紛らすように、私はシンタローに話しかけます。

「私ね、シンタローがまた外に出てくれるようになってくれて嬉しいよ。お友達もたくさんできたし。私ずっと心配だったんだから!だからね、もうね、忘れちゃってもいいけど、絶対、幸せになってねっ」

別に届かなくったっていい、だってシンタローはすでにその幸せを掴んでいるのだから。だからこれは私の自己満足で、まだ真横を歩いているシンタローには聞こえないし、関係のないことです。それでも、有りもしない涙が出るのは何故なのでしょうか。

空はもう夕暮れです。この真っ赤な日の光くらい私の体を反射してくれてもいいと思うのに、擦り抜けた赤はシンタローだけを照らしました。もうすぐ、夜が来ます。



title:へそ

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