∴ストロベリーオンザショートケーキ・フロムコンビニ



寒いな、と呟いた息が白くてつくづくここが雪国だったということを思い知った。アメリカではこんなに寒くなることなんて一度も無いからコートだって必要ない生活だったのに、と少しだけ文句を垂れながら片手をコートのポケットに突っ込む。片手を無くして少しだけ不安定になった自転車が前かごのビニール袋ごと揺れた。夜中の田舎道は、一人で走るにはあまりにも寂しい。だからだろう、気がつかないうちに車輪を早く漕いでいた俺が家に着いたときにはすっかり息があがっていた。

「あ、室ちんおかえり〜」

ドアノブを捻ればのんびりと間延びした声が俺を迎え入れた。やれやれ、誰がこんな寒い夜に重たい尻をあげてコンビニに行ってあげたと思ってるのか。ちゃんと買ってきたよ、とビニール袋を持ち上げればキラキラと目を輝かせた。小さい子供みたいだ。いや、実際にまだ子供なのか。細胞が間違った分裂をしてしまったような大きな体に惑わされがちだけど、ほんの少し前まで中学生だった彼の、体に見合わない年相応の反応が何だか微笑ましくてついつい笑みがこぼれてしまう。

「味は?」
「苺のショートとチョコが一つずつ」
「お金は?」
「いらないよ、後輩にお金をせびる先輩なんて格好悪いからね」

財布を取り出して中身を確認するアツシにやんわりと断っておいた。夜中に人にお使いを頼むような図太い神経をしている割にそういう所は律儀なんだな、って感心する。それでも、じゃあ俺こっち食べる、そういってチョコケーキの箱をズルズルと自分の方に引っ張っていったアツシがコトリと大きな硬貨を落としていって、さすがに突っ返すわけにはいかないからと素直にそれにポケットの中にしまっておいた。それを見届けて満足したのか、ねえ室ちん早く食べようよってまだ手がかじかんだままの俺にフォークを握らせた。その間に、俺だって小さくはないはずなのにそんな俺の手をすっぽり包んでしまう大きな大きな手の平の温もりが冷えた俺のをゆっくりとほぐしてくれたから、いつの間にか指が自由自在に動くようになっていた。ありがとって言ったら、べつにってそっけなく返されて苦笑する。相変わらず愛情表現の下手くそな奴だ。

「ねえ、ほら。早くしないと俺がイチゴ食べちゃうよ」
「うーん、それはやだな」
「一緒に食べてくれたら俺のチョコも分けてあげるからさ」

せーのでいただきますをしてスポンジに切れ目を入れる。生クリームが口の中に広がって、そしてすぐに少しの甘さを残して喉の奥に消えていった。おいしいねっていえばおいしいねって返ってきて、まるでこだまみたいだ。外はまだまだ寒いはずだけど、アツシといるとなんだかすごく暖かいね。



title:joy

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