∴神様だった時の話



「世の中でさ、一番人間出来てないのって神様だと思うんだよね」

ま、人間じゃないから当たり前っちゃあ当たり前だけどさ。チョキの高尾がグーの俺へと話し掛ける。

「何が言いたい?」
「だって酷くない?いつまでたっても俺に勝たせてくれないんだぜ」
「俺が人事を尽くしているまでなのだよ。御託はいいからさっさと漕げ」
「へーい」

高尾がのんびりと自転車に跨がって、信号が緑を点滅させているところでようやくリアカーが進み出した。ガタゴトガタゴト、一昔前の電車みたいにゆっくり進む。

「しかし意外だな。お前は神様などという想像上の生き物を信じていただなんて」
「信じる、ってほどじゃねーよ。俺なんかよりよっぽど真ちゃんの方が信じてそうだけど」
「俺が、か?」
「うん、だっていっつもおは朝の占いみたり、やたらに験担ぎ多かったり、運命運命言ったり、どんだけオカルト好きなの?って感じ」

なるほど、俺は他人からそう見られていたのか。俺自身はそんな神様などという突飛な存在を肯定はするが信じはしない、その程度だ。占いも験担ぎも行った方が調子がいい、だから欠かさない。そういう一種の物理的理由によるものであって、決して非科学的な根拠によるものではない、つもりだ。でも他人から見たら俺は随分異端なのだろう。高尾はそれを教えてくれる貴重な友人だ。

「真ちゃんってさ、ジャンケン負けたことある?」
「むしろ生涯に渡って勝ち続けられる人物を見てみたいのだよ」
「へー、それで誰に負けたの?」
「赤司や青峰とか数えればキリはないが」
「マジかよ。今度キセキの世代さんにジャンケンの必勝法教えて貰おうかな‥‥‥」
「そもそも、そんな必勝法なんてものはないのだよ」
「ですよねー」

ハハハと軽く高尾が笑った。坂道の下り坂、景色が流れるのが大分早い。高尾もサドルへと腰を下ろした。

「じゃあさー、俺って神様に嫌われてるのかなー」
「知らん」
「ちょっ、フォローくらいはしろよ!」
「神様の気持ちなど俺にわかるわけがないだろう」
「だって神様は絶対真ちゃんのこと大好きじゃん」
「何故そう言い切れる」
「だってジャンケン強いしキセキの世代だし」
「キセキの世代は関係ないだろう」
「大有りだって」

一体誰がそんな仰々しい名前を付けたのか。俺はその名前が嫌いだった。その言葉を発するとき、高尾はまるで神様でも扱っているようなのだ。だから嫌いだった。高尾が教えてくれることに嘘はないのだから。

「だって俺はジャンケン勝てないのにキセキの世代は勝てるんだろ?不公平だ、って訴えてやろうか」
「たかがジャンケンごときで訴えられたら神様といえどさぞ迷惑だろうな」
「勝ってるからって余裕こくなよこの緑間め!ほら赤信号だぞ、今度こそお前を負かしてやる!」
「何度やっても結果は同じなのだよ。‥‥‥‥‥‥ほら、言った通りだろう」

そんなに自分のパーを見つめたところでグーになる訳でもあるまいに。ぐぬぬと些かマヌケなうめき声を上げた高尾がまだチョキを出したままの俺の左手の間に自分のパーを差し込んだ。紙とハサミ、何をどうやったって結果は明白だ。高尾がはー、と溜め息を吐いて小さく呟いた。

「やっぱ神様ってすっげえ性悪だ」



title:にやり

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