∴そして輝く夢をみる



(頭痛い‥‥‥‥‥‥)

大したことはない、だけれども左脳は鈍い痛みを必死に主張する辺りもう嫌がらせにしか思えなくなってきた。まあ、理由として思い付くのは生活が変わってそれに体がついていけてないんだとかそんな当たり前のことだけれど。それなら耳のイヤホンを外せと言われそうなものだが、これは長年の癖のようなものだからわざわざ外す気力も起こらなかった。

大きな道路沿いに申し訳程度に作られたとしか見えない小さな公園のベンチに腰掛けながら俺なんかには目もくれず通り過ぎる群衆を見遣る。もしかしたら俺じゃくてキサラギが座っていたっしても通り過ぎるんじゃないかという人々は一体何にそんなに急いでいるのか。お世辞にも働いたことがない俺には到底わからない。

「お疲れさん」
「ひゃあッ!?」

そんなどうでもいいことを考えていたら、不意に、頬に得体の知れない何か冷たいものが触れる。思わず情けない声を上げて確認してみようとすれば、それは山なりに放り投げられて俺の腕に無事収まった。よく見かけるコーラの缶ジュースだ。

「へぇー、キドでもそんな声出すんだ」

俺の頬に缶を押し当て、その後無造作にそれを放り投げた張本人、カノはいつものようにおちゃらけた笑い顔を浮かべながらヘラヘラと俺を指差した。頬を触れば結露による水滴がまだ残っていてそこだけヒヤリとする。文句を言いたいのは山々だがちょうど喉も渇いていたことだし今回は見逃してやることにした。プシュッという軽快な音と舌の上を弾ける炭酸が心地好い。例え頭が痛かったとしても、これだけは別格だ。

「‥‥‥‥ん、サンキュ」
「可愛げないなぁ。もっとほら、『カノくんのおかげで助かったわ!ありがとう大好き!』くらい「殴るぞ」すみませんでした!だから殴らないでごふっ!?」

腹を抱えて悶絶してる姿を見て自業自得だと内心で呟く。そんなに女子に飢えてるなら俺以外の女子団員にでも頼めばいいものを。まあ、あまりいい結果は見込めないと思うが、特にマリー。

「それにしても賑やかになったよなー」
「ああ」
「僕はこういうの好きだけどなー」
「俺もだ」
「へえ、意外。そういうの苦手だと思ってた」

まあ、普段の俺の態度を思えばそう思われても仕方ないか。でも実際賑やかなのは嫌いじゃない。

「憧れてた、とか言ったら笑うか?」
「さあね」

口ではああ言っているし顔もニヤニヤしたままだけれど、きっと中では俺を一番わかってくれてる。それがカノって奴だ。

「お前が素直になったら世界滅亡の兆しだもんな」
「あのさあ、たまには僕も殴ったりしていいっすか?」
「じゃあ殴り返す」

くっだらない会話の途中で、突然街中に響き渡るような歓声があがった。俺とカノがまったく同じタイミングで溜め息をつく。賑やかもいいが、ここまで五月蝿いのは戴けない。

「あちゃー、キサラギちゃんやっちゃったかー」
「人事みたいに言うな。助けにいくぞ」
「あー、はいはい」

よっこらしょ、と若干年寄り臭い声を出してベンチを立った。そして残りのコーラを一気に煽る。

「任務開始ってとこですか?」
「行くぞ」

さあ、賑やかな日常を迎えに行こう。



title:自慰

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