∴舌に絡まる儚い甘さ



ガリ、というあまり耳障りの良くない音にエドワードは眉を潜め隣の男を見遣った。ガリガリ、ガリガリ。そんな聞き慣れない音に、エドワードの爪先は自然と苛立ったように地面を叩く。ガリガリ、トントン、ガリガリ、トントン、ゴクン。「甘っ」そう呟いて舌を出したチェスロックからは仄かにストロベリーが香っていた。

「何こっち見てんだよ?」
「別に」
「飴玉が欲しいんならまだあるぜ」

そう言ってチェスロックはけばけばしいビビッドカラーのパッケージをひらひらさせる。フルーツキャンディー。わかりやすくでかでかとした文字でそう書かれている袋の中にはピンクにイエロー果ては何味かも知れぬブルーなどと、色とりどりの包装紙で包まれたキャンデーが乱暴に詰め込まれていた。別に口が寂しいとかそんなことはなかったが、エドワードは半場無意識に頭の悪そうなパッケージから一つ、飴玉を拾い上げる。濃いグリーンが網膜を刺激して反射的に瞬きをした。包装を解けば緑というよりは黄緑といった方が正しい色のキャンディーがころりと手のひらに転がって、それを口の中に放り投げればよくある甘い味が広がるのだけれど、いまいち思い出せないその安っぽい味の手掛かりはないかと捻れていた包装紙を綺麗に伸ばしてよくよく見てみれば黄色の文字でメロンと書かれている。言われてみれば確かにメロンのような味がした。コロコロと甘ったるいキャンディーを転がす脇ではチェスロックが件のブルーの包装紙を開封しているところで、それをぼんやりと見ていれば中から出てきたのは紫、さらによく見てみるとパッケージにはグレープと書かれていた。
とんだ詐欺じゃないかと、エドワードは舌の上でメロンキャンディーを転がしながら思う。

「お前って、飴玉噛むタイプなんだな」
「ん?あー、まぁ」
「知ってるか。飴玉噛む奴ってせっかちらしいぞ」

エドワードの言葉をさして気にする様子も見せずにチェスロックはふーんと生返事を一つ返して、そして恐らくは先程のグレープキャンディーをガリガリと噛み砕いた。チェスロックの口の隙間から犬歯が覗く。それを見て、エドワードは自分の首筋に手をやった。まだ押すと多少痛みが残るくぼみは紛れもなくあの犬歯によってつけられたものである。せっかちな野郎めと心の中に少し悪態を落として、エドワードは試しにキャンディーを噛んでみた。既に小さかったそれは簡単に粉々になって舌の上をざらざらと這い回る。

「多分お前、将来虫歯で死ぬな」
「はぁ?何だソレ」
「何でもねーよ」

飲み込んだメロンキャンディーはどこまでも甘ったるくて、もしも今キスなんてしたら互いに甘過ぎて吐きそうだな、なんて。思ってみたって言えっこないのだ。



title:塩

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