∴ひとりと三匹



※捏造



もう本当にうるさくってうるさくって死にたいって思うほどうるさくって。でも死ぬのがどんなに苦しくて辛いことなのかっていうのは一回死んでるからわかっちゃう訳で、わかっちゃってるのに死のうだなんてそんな馬鹿みたいな真似は出来ない訳で、うるさくってうるさくって死にたいんだけど死ねないからぐずぐず泣きながら生きてます。

今日は何の変わりもないいつも通り過ぎて泣きたくなる一日でした。僕の隣の席の田中くんが山本さんの筆箱を隠すいたずらをしていました。田中くんは山本さんのことが大好きです。けれど山本さんは田中くんに死ねと言ってました。死んでいなくなっちゃえって思ってました。田中くんはとても馬鹿な子でした。でも少し可哀想だなあと思いました。その事を僕だけが知ってました。田中くんの大好きも山本さんの死んじゃえも僕だけにしか聞こえないのです。これ、とっても不便だと思います。田中くんの大好きも山本さんの死んじゃえもお互いに聞こえれば田中くんがいじわるをすることもなくなるし、山本さんもスッキリすると思います。でも何でか知らないけれどそれは全て僕に集まってくるのです。僕は今日も今日とて泣きたくなりました。そして田中くんの代わりに死にたいと思いました。

下校時間になりました。僕は一人きり昇降口の所に立ってつぼみちゃんと修哉くんを待っていました。たくさんの人が先生にさよならを言って、道を駆けていきます。たまに先生にあいさつするのを忘れて叱られている子もいました。そんな子は早く帰らせろと先生に対して怒っていました。早く遊びたいみたいでした。それは僕も一緒です。早く帰って、つぼみちゃんと修哉くんと、あと文乃お姉ちゃんと一緒に遊びたいです。でも二人はまだ来てくれません。僕にぶつかった上級生が僕に邪魔だ死ねって思ってました。もう僕死んだことあるんだけど。僕はこっそり思いましたが、上級生はもうそんな僕なんて気にしていないようでした。

中ぐらいの飴なら舐め終わるほどの時間が経って、僕はつぼみちゃんが昇降口からとぼとぼ下を向いて歩いてくるのに気がつきました。つぼみちゃんは泣いていました。けれどその涙に誰も気づいていませんでした。先生も、まるで知らんぷりでもしてるみたいにつぼみちゃんを素通りします。つぼみちゃんは更にじわじわと涙を滲ませて僕の隣に立ちました。仲間外れにされたのだと、とっても悲しかったのだと、つぼみちゃんは心の中で言っています。だから僕はそっとつぼみちゃんの手を握りました。つぼみちゃんが仲間外れなら、きっと僕も仲間外れのはずです。仲間外れ同士が仲良くしたって誰も文句は言えないはずです。僕はつぼみちゃんに修哉くん遅いねと言いました。するとつぼみちゃんは小声で、修哉くんは今日日直だよってと言いました。そういえば今朝、修哉くんはそんなことを言っていたような気がしました。一緒に、だから僕を置いて帰ってもいいよとも言ってたような気がします。けれど僕たちは先に帰らずに修哉くんが来るのを待ちました。修哉くんもまた、僕たちと同じ仲間外れだからです。

それからしばらく経って、人もまばらになった頃に修哉くんが昇降口から出てきました。修哉くんはにへらと笑っておまたせーと言いながら僕たちの方に駆けてきます。そして泣きそうな僕と泣いているつぼみちゃんと繋がれた手を見て、少しの間じっとしたあと、僕と同じようにつぼみちゃんの手を握りました。修哉くんはにこにこ笑顔でしたが、実は修哉くんが僕と一緒でとても泣きたがっているのだということを僕は知っています。知ってしまえるんです。がんがんがんがん頭の中に響いてくるので嫌でもわかってしまうんです。僕は早く帰ろうと言いました。早く帰って、文乃お姉ちゃんの帰りを待って、それで四人で遊ぼうって言いました。二人はこくこくと頷いてくれました。だから僕たちは三人で手を繋いだまま歩き出しました。面倒臭がりな先生にもちゃんとさよならを言いました。相変わらず泣きたかったけど、二人がいたので結局涙は出ませんでした。死にたがりの僕はどうしようもなく一人でしたが、ひとりぼっちではなかったのです。まだ明るすぎる夕焼けが僕たちを照らしていました。



title:joy


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