∴レンジでチンしよう



※大学設定



冷凍庫の中から皮膚を刺すような冷たさを持ったパッケージを引っ張り出して、そのビニールの包装をビリビリと破る。今度は包装から出てきたカチンコチンでとても美味しそうには見えないものを電子レンジに放り込んでスタートボタンを押した。あとは変な光に照らされながらぐるぐる回るのをぼっと待っていれば終わりだ。ただし待っている時間が勿体ないので、皿やらフォークやらをガチャガチャと取りだしテレビをつけて飲み物ついでさて後は何をするべきかと頭を捻らせたところで『チンッ』と軽妙な音が鳴った。今日の夕飯の完成の合図である。

「はぁ?お前いつもそんな飯食ってんのか?」

講義が終わった後、家に帰るのも面倒臭くて大学の敷地内でダラダラとお喋りをしていたら、奥村くんは信じられないという体でもって俺のことを見てきた。丁度話題は昨日の夕飯であったから、とりあえず冷凍食品のピザを食べたと言ったら予想外に大きなリアクションをされた訳である。

「やって俺自炊できへんもん」
「そういう問題じゃないだろ!」

じゃあどういう問題なんだ。そう口にすればたちまち面倒なことになるだろうから言わないが、事実自分は一体どこにどんな問題があるのかなんてわからないのだ。確かに元気の塊みたいな奥村くんからすれば自分の食生活はさぞ不健康に写るだろう。でもそれはあくまで奥村くん基準の話であり、現代人の、それも特に若者に限定すれば特に珍しくもなんともないことである。実際自分は病気もしていなければ体力が衰えたと感じることもなかった。存外人間だって丈夫に出来ているのだ。多少食生活が乱れた程度でへばっていたのなら食物連鎖の頂点に立てることはなかっただろう。

しかしどうにも何かが気に入らないらしい奥村くんは今にも「じゃあ俺が作ってやる」と言いそうな雰囲気である。彼は馬鹿だからありがた迷惑という言葉を知らないのだろう。きっと今も、自分がそれを言われないがためにペラペラと下らないことを喋り続けているその間に一瞬でも間が開けば彼はすぐさまそれを発動させることだろうと思う。自分はそのような、まるで自分が信じることは全て正しいんだと言わんばかりの姿勢が大嫌いであった。見ていてイライラする。価値観の相違からいじめや差別が発展したりするが、それと何ら変わらないような気がした。そんなもの、偉大なる冷凍食品と一緒に氷づけされてしまえばいいのにと思う。冷凍庫の奥の方に押し込んで、賞味期限切れまでアイスや保冷剤やその他諸々て隠してしまいたかった。

「じゃあ俺帰らないけんから。ほな、さいなら」
「おい志摩!」

けれど実際にはそんなものに賞味期限はないのだから、待てども待てどもへばり着いてくることくらいは理解せざる負えないのだ。何とも面倒臭い世の中である。奥村くんから逃げるようにして強引に帰路へと歩を進めるその時も、彼は何かをとても言いたそうにしていた。けど、結局何かを言われることはなかったし、追いかけられることもなかったのでまあラッキーだと思う。丁度今日は近所のスーパーでインスタントラーメンの安売りをしているはずなのだ。もちろん寄るつもりだったけれど、もしも彼が俺の後をつけてきて、万が一にもそれを見られたものなら説教よろしくくどくどと言われるのだろう。それはごめん被りたかった。





冷凍庫の中から引っ張り出したピザは相変わらずピザと呼んではいけないような見た目をしていた。カチンコチンのせいでとても美味しそうには見えなかったけれど、構わず電子レンジに放り込む。スタートボタンを押して、変な光の中をぐるぐる回るピザを眺めながら、安っぽいチーズが溶けるのを待った。



title:魔女


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