∴遺書「おやすみ」



遊馬、君にとって僕はどんな存在だったのかな。

もしそれがたわいのないデュエリストの一人だったとしても僕はそれでいいと思っている。だってあのデュエルは遊馬にとっても経験したことがないくらいに凄い物だったと自負している。僕のことが君の記憶に埋蔵されていったとしても、きっとあのデュエルの熱気くらいは覚えていてくれるんじゃないかな。

さて、君にとっての僕は前述した程度だと推測するけれど、僕にとっての君はただのデュエリストではすまなくなっているんだ。

僕が常に精神的に不安定だったのは君も見ていたと思う。僕は常に復讐と理想の狭間で揺れていた。君は理想だった。毎日楽しくデュエルして、家族に囲まれてご飯を食べて、友達と話し合って。それは僕にとっての理想そのものだった。だから僕は君を憎んだ。例え僕が復讐と理想の狭間で揺れていたとしても、復讐しか選択肢にはなかったのを知っていたからね。理想とは僕にとって人間が自力で空を飛ぶようなものなんだ。それに強く憧れるのだけれども、それが実現することはない。それが理想、つまり君だったんだ。

ここまでを読むと、きっと君は僕が君を嫌っていただろうと思うだろう。確かに僕は君を嫌っていた。だってどんなに頑張っても僕は理想を手に入れることなんて出来ないのに、君は何もしなくとも常に理想の中にいた。これ程僕にとって憎たらしいことはないだろう。

だけどね、ここからが僕にとって重要なことなんだ。

君は理想の中にいながら復讐の中にいる僕に手を差し出したんだ。復讐と理想が相成れないことは誰が見ても明白なのに。だけど君はそれを実行した。それが僕にとってどれ程嬉しかったことか君は想像することは出来ないだろう。

君は光だった。陳腐でありきたりな表現になってしまうけれど、君は僕の暗黒の世界に差し込んだ一筋の光だったんだ。僕はそれに照らされて、一時だけ理想に触れることができた。幸せだったよ、僕は。

だけど僕はどうやらそこまでだったようだ。僕はやっぱり復讐の人間だからね。だから僕は君の手を振り払って復讐に身を投じたよ。でもそれは君がいたからこそなんだ。君が少しだけでも僕に理想をくれたから、僕はもう復讐に身を染めてもいいと思えたんだ。

だけど君は君自身を責めないでくれ。こうなることは百も承知だった。ただ揺れていた僕はそれを先延ばしにしていたんだ。君は僕に決断の勇気をくれた。君は僕の恩人さ。

本当ならもっともっと君について話したいことが山ほどあるんだ。だけど残念ながら僕は眠くなってしまった。少し疲れてしまったからね。

それじゃあ遊馬、君の幸せを願っているよ。おやすみなさい。



title:joy

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