∴脆弱
果たして、泣くというのはこんなにも惨めなことだっただろうか。ドルベの目からボロボロと零れ落ちる大粒は確かに透き通っていたが、縮こまる彼の姿はとても見れたものではなかった。それにその零れ落ちる涙も、舐めるとまるで裏切られたかのようにそのしょっぱさを以て舌を刺すのだ。結局は惨めで憐れで情けないことに変わりはなかった。
「ドルベ、奴らは消えた。悲しいのはわかるがいい加減泣き止んだらどうだ。七皇のくせに情けない」
「っ、すまない‥‥‥」
「消えた奴に執着したところで何かが変わるわけではないことをお前だって理解くらい出来るだろう」
しかし、私が何と言おうと一向に止まないえぐえぐとした嗚咽はどうにも私の神経を逆なでした。背骨が軋むような心地に鳥肌は立ち歯軋りが鳴る。私自身も奴らが消えたことへの不安と憤りが立ち込めた状態であったものだから余計イライラに拍車がかかった。普段ならドルベ相手には使わないような罵倒もあっさり口をつくものだから、心というのは実に単純だ。
「ドルベ、お前は今自分がどれだけの醜態を晒しているのか見当がついているか?もしもベクターに見られたりなんかしたら一生お笑い草だぞ」
「‥‥‥‥‥‥」
「言い返さないのか?己が酷く醜いと言われてそれを受け入れるというのか?情けないぞ、ドルベ。実に情けない」
「もういい、ほっておいてくれ‥‥‥」
掠れきって殆ど二酸化炭素で構成された音は、しかし私の口を塞ぐには充分だった。私は飛び出しかけていた言葉をぐぅと押し込み初めて沈黙を作る。自分の中で忙しなく感情が蠢くとてもうるさい沈黙であった。私は更にイライラした。ドルベは泣き止もうとしない。
「ああいいさ。お前なんかお望み通り放って置いてやる。恥だ。お前や七皇だけじゃない、私にとっても恥だ。よくよくその脆弱な脳内に焼き付けておけ」
我慢ならなくなって私は早口にそう捲し立てた。ドルベは顔を下に向けたままえぐえぐと泣いている。私は何とも言えない気持ちになってもう一度ドルベを叱りつけてやろうかとも思ったが、放って置くと言った手前それは憚られた。ギシギシと歯軋りを歪ませながら、私はせぇのという心の中の合図でドルベに背を向ける。泣きたくなった。目頭が熱くなり鼻の奥がツンとする。情けない、恥ずかしい、みっともない、惨め、憐れ、エトセトラ。マイナスの単語が脳内を飛び交っていた。私は堪らなくなってズビズビと鼻を啜る。今の音はドルベに聞こえてしまっただろうか。もし聞こえてしまったなら、次に会ったとき何と言えば良いのか。考えて、私は悲しくなった。本当の弱虫は私だったのだ。
title:joy