∴晴天屋上昼寝日より



※学パロ



初夏の屋上は涼むにしては少し暑い。けれど、だからといってそこが格好のサボりスポットであることに代わりはなかった。日射しを遮る物がないせいでじわじわと熱を吸収し続けた保温シートのようなコンクリートに腰を下ろし、暑いなぁなんて厚かましい文句を言いながらチャイムの音を聞く。特に授業についていけないだなんて情けないことはなかったが、あの狭苦しくて茹だるような空間がどうにも苦手で、同じように暑くても見上げれば一面の真っ青が飛び込んでくるような、そんなこの場所の方が何十倍と魅力的に感じるのは当然の摂理だろう。コンクリートに寝転がって、自分の背中を初夏の熱が焼こうとしているのをひしひしと感じながらサボタージュの定番である昼寝を決行しようと目を瞑った所で、ギギギと重いドアを開ける独特の音が耳に入り込んで来た。タイミングが悪すぎる。

「まーた、サボりっすか?」
「君が人のことを言える立場だとは思えないけど」

ヘラヘラと笑う昼寝の邪魔者は僕の隣に図々しく座り込むと、手にぶら下げていた大手コンビニエンスストアの袋から鮮やかな紫を取り出して、これ見よがしに気持ち良さそうな音を立ててその炭酸飲料水を飲み始めた。途端、急に僕の喉も潤いを欲し始めてもう昼寝どころの話じゃない。奴の喉が上下するのをただ見るだけのことがまさかこんなに辛いだなんて。この一連の動作には軽い殺意すら覚えた。

「ねえ、これって苛めだよね」
「そんなこと言っちゃっていいんすかねえ。折角カノの分も買ってきてあげたのに」
「ウソっ、本当に?そういうことは早く言ってよ」

相変わらずヘラヘラと薄い笑いを引っ付けたセトが、僕の眼前にCMとかでよく見かける黄色のラベルのついたペットボトルをユラユラさせる。それを引ったくるようにして、結露で服に水滴が落ちるのも構わずにその中身を流し込む。喉を焼くような痺れが暑さにやられた体に心地いい。思わずアルコール入りのオッサンのように体を震わせた僕を見てセトが笑う。

「160円。あとでよろしく」
「げ、奢りじゃないのかよ」
「あったりまえじゃないっすか」

途端、まるで神様のようだったシュワシュワもただの安っぽい飾りにしか見えなくなって、そんな単純な心理に馬鹿馬鹿しくなって残りを思いっきり流し込む。噎せそうになった。そういえば、セトが買ってきた二本はどちらも果汁入りで、なんだか子供のようだと思った。ここは子供の無邪気として許すべきなのだろうか。いやいや待てよ僕。奴は僕と同じれっきとした高校生だ。まさかそんなことにぐらつくだなんて、きっと全ては暑さのせいだろうか。いや、八割くらいは奴のせいな気がする。

「君、以外と性格悪いよね」
「そっすか?」

なんかムカついて、屋上に落ちる二人ぶんの影から目を反らすようにして空を見上げてみた。でもそこにはお天道様がここぞとばかりに照っているのがわかるだけで、その圧倒的太陽光エネルギーに光合成が出来ない僕はじわじわとライフを削られてるような気さえする。

「風が吹いてくれればいいんすけどねぇ」
「じゃあ君が起こしてよ、風」
「天狗じゃないんで無理っす」

地面に置かれた二本のペットボトルの下には結露による湖が出来上がっていた。涼しさを求めてそれに手を浸してみるけれど、残念、もうとっくに生ぬるい。



title:joy


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