∴宇宙、しんじゃった



赤色、はあまり好きじゃない。だって似合わないから。黒髪と白い肌。自分でもまあそれなりに綺麗だと思う体躯をしているのだけれど、どうにもそんな自分にも赤色は似合わないようだった。アイドルと言えど万能ではないと言うことか。年末の歌番組では赤組を名乗りながらもピンクの衣装に身を包んでいたことを思い出す。走馬灯にしてはチョイスが微妙だった。

(赤いなぁ‥‥‥)

そんな赤色が似合わない私だけど、体に貯蔵されていたのは赤色ばかりだったみたい。ドロリ、お世辞にもあまり綺麗とは言えない赤色、というよりは赤茶色と言った方がいいような、そんな煤けた色が私を染め上げていく。

不思議とあまり痛みは感じない。きっと感覚神経がやられているんだろう。その代わり、と言ったらあれだけれども、やたらと時間が過ぎるのが遅く感じた。一秒が一時間になったみたいにゆっくりとゆっくりとスローモーションで流れて行く景色。まるで、そこで大きく口を開いて私を待ち構えている「死」から時間稼ぎをしてるみたいだと思った。 悪足掻き、そんな言葉が思い浮かぶ。
実際、そんなものだった。私の人生が全て悪足掻きの言葉に収まってしまうような、そんな最期。その結果の赤色。アイドルとして大勢の観衆達の前で華々しくスポットライトを浴びて、そんな誰もが憧れる眩しい存在だった私のラスト。その奇想天外な悲劇的結末は私に相応しいような気もするし、誰にも見られずに一人寂しく死んでいくのは私に相応しくない気もする。でも、それが現実なのだから仕方がない。受け入れて、息絶える。私に出来るのはそれだけだ。

しばらくすると、と言ってもものの数秒だろうけれど、猛烈な睡魔に襲われた。逆らうのも面倒臭くなってまぶたを閉じる。その途端次々といろんな思い出がよみがえってくる、なんてことはなく、ゆっくりとした時間の中徐々に自分が眠りに落ちていくのがわかった。最初に私を見つけるのはやっぱり彼だろうか。嫌だな、こんな姿見られちゃうのは。

(だって私、赤色似合わないのに‥‥‥)

ああ、とても眠い。



title:塩


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