∴眩しい朝日と暖かい希望



ぱちり、と目を開けて真っ先に薄ピンク色のカーテンを引く。すっかり昇りきったお天道様の光が直に瞼の裏を攻撃してきて、それに合わせてボヤボヤとした意識もようやくお目覚めしたようだった。んんーって気持ちの良いのびをしていたら、うぅとかくぐもった声と同時に毛布の固まりがモゾモゾと動く。せっかくの気持ち良い太陽光にすらそっぽを向く先輩兼同居人兼恋人に向かってアンタはドラキュラかよ、って悪態をついてみたけど毛布に包まった耳に届くはずもなく当の先輩は今も夢の中だ。

「霧野センパーイ、朝ですよー」

一応声を掛けてやっても反応することなくぐぅぐぅと寝息を立てる。しっかり者のように見えて意外とぐうたらな先輩はぐうたらの例に漏れず低血圧で、毎朝のように俺の手を患わせている。これじゃあ先輩の威厳なんてあったもんじゃない。それでも何やかんやで俺が先輩の面倒をみてやってるのは園で鍛えられた世話焼き精神のおかげだろうか、それとも惚れた弱みってやつだろうか。

何度揺すっても起きない先輩は放っておくことにして、顔を洗って口を濯いで手を洗って、そして冷蔵庫を開くとひんやりとした空気が頬を駆ける。これが堪らなく気持ち良いのだけれど、時代はエコだ。すぐに卵を二つだけ取って冷蔵庫をパタリと閉めた。フライパンをだして火をつけて、その上で卵を割る。二つ仲良く並んだ黄色が微笑ましくって、ついつい口元が緩んでしまった。さて、微笑ましいのはいいことだけど焼けてしまう前に他の朝食の準備をしなきゃいけない。そういえば食パンまだあったっけ?あ、あったあった良かった。それをオーブンにセットしてコップを出した頃には目玉焼きがフライパンの上で早くしろって叫んでる。ハイハイ、今取りにいくからな。ガチャガチャとお皿を並べて盛りつける。それと同時にチンって気持ち良い音。まったく忙しいったらありゃしない。そうしてオーブンのパンを取りに行こうとしたら、突然後ろからギュッてされて、ぬくぬくした温もりが。「かりやぁ」だなんて、まだ寝ぼけてるっぽい先輩が俺の首筋に顔を埋めながら喋るものくすぐったくてちょっとだけ身をよじった。「かりやのにおいがする」一体どこの犬ですかアンタは。ギュウギュウとまるで俺を抱きまくらかなんかと勘違いしてるんじゃないのってくらいに抱きしめられて、身動きなんてとれないから先輩になされるがままになる。「どうかしたんですか先輩」それでも俺も大分慣れたものだ。

「かりやがいたから、」
「はぁ」
「ぎゅうってしたくなった」
「幼稚園児ですか‥‥‥」

後ろから抱き着かれてるから先輩の顔は見えない。俺よりもいくばくか大きな体が優しく俺を包み込んでいて、柄にもなく、ずっとこうしていたいな、だなんて馬鹿みたいだけど確かに思った。お日様も祝福してくれてるみたいに、ポカポカして気持ち良い。あ、でも、そういえば朝ごはん。時間がたって冷めてしまう前に食べないと。名残惜しいのは山々なんだけど、そろそろ離れてくれないとせっかく作った朝ごはんがまずくなってしまう。やっぱり、そんなご飯を先輩と一緒に食べるのは気が引ける。「先輩、朝ごはん‥‥‥」グルッて振り向いて先輩にその旨を伝えようと思ったら、ちゅっていう小鳥の囀りみたいな軽いリップ音と、唇で感じた小さいんだけで確かな温もり。

「おはよ、狩屋」

反則級の微笑みを湛えた先輩と目があった。「え、あ、お、おはようございます‥‥‥」馬鹿みたいに顔が熱くなって、口から出たのもしどろもどろな挨拶。くそ、アンタさっきまでの絶対演技だったろ。何その顔、カッコイイんだよチクショウ。これじゃあ俺がバカみたいじゃないか。さっきまでの俺の余裕どこ行ったんだって聞きたくなってきた。先輩バカ、とでも言うべきだろうか。ああ、カッコイイな、って素直に思える人なんてこの人ぐらいだ。

「そ、そうだ朝ごはん!冷めちゃう前に食べちゃいましょう!」
「そうだな‥‥‥フフ」
「何笑ってるんですか!」
「ハハ、何でもないよ」
「うぅ‥‥先輩のバカ!」

急いでパンを取りに行って、先輩と向かい合わせに座っていただきますをする。正直、味なんてあってないようなものみたいによくわかんない。その原因である先輩は、悠々と目玉焼きを口に入れながら俺をチラリと盗み見た。

「たまには可愛い所もあるじゃん」
「うるさいっ」



title:自慰


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