∴モノクロシンドローム



どうやら、ついに僕はおかしくなったようだ。
広がるのは無彩色の世界。辺り一面の白と黒と、それを混ぜた中途半端なねずみ色。何度かまばたきを繰り返してみたり、二度寝してみてもそれは変わらず、ただ色見を失っただけで世界はこんなに味気なくなるものなのかと当たり前で無意味な感動が僕を包んだ。同時に、ごはんが不味く見えるのが一番の心配だと思った。

あと困ることと言えば、みんながまるで別人に見えるのもなかなか不便だ。カエルじゃないセト、黒髪のキサラギちゃん。あんなに派手な青色を撒き散らしてたエネちゃんも当然のようにモノトーンだ。僕自身はまぁ、元々黒っぽい服をよく着るからあまり変わらないと思う。

「それで言うとなんというか、シンタロー君は目に優しくなったね」
「悪かったな、目に痛い配色で」
「そんなことなかったよ。もしかしたら格好よく見えたかもしれないし」
「それカッコ悪いって言ってるだろ」
「バレちゃった?」

そう言えばシンタロー君は不機嫌そうに僕を見た。アハハと笑う僕に呆れを隠さない目はいつもと同じ真っ黒で、それにちょっとだけ安心する。覗きこんだ目が突然虹色になったりしたら、お腹が痛くて耐えられないほど笑い転げる自信があるからね。うん、冗談。
それは置いといて、対する僕の目は今、彼みんなの目には何色に写っているのだろう。黒?茶?それとも赤?どうせ僕の目には全部黒にしか見えないんだろうけど、なんて自嘲気味になるくらいには僕は精神的にまいってるらしい。

「ズルいなぁ、シンタロー君は色んな物がありのままに見れて」

そうやって気を引いて同情させたって急に何かが見えるようになるわけでもあるまいし。キドがどこからか揃えたアンティークも、マリーが丁寧に育てたお花も、もう僕の目には白黒灰の感動を与えようにも無理がある謎の物体にしか見えなくなってしまった。

「‥‥‥原因わかんねえの?」
「わかってたら苦労はしないさ」

シンタロー君を覆うジャージは黒じゃない。あんなに目に眩しかった赤色はこんなにも簡単に僕の世界から消えてしまった。忌まわしくって、暖かくて、最高にかっこよかったあの色をもう見れないのだと思うと、少し、いやかなり寂しい。

「でもまぁ、仕方ないことなんだよね」

瞼を閉じて、その裏にこびりつく鮮明な赤色を思い出す。このまま目を開けなくってもいいかな、なんて思いたくなるくらいには僕はまだまだ弱かった。


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