∴嘘が似合う奴似合わない奴



信じる者は報われない。それを一番知ってるのが僕。僕の嘘で幾人との人が傷ついて幾人との人が僕を否定して離れて行った。

(人間なんて嘘吐きの常習犯なんだからもっと警戒してくれたっていいのに)

どうして馬鹿みたいに簡単に他人を信じたりできるのか。嘘をつく側の僕から見てみれば滑稽なこと極まりない。

「オイカノ!今日はみんなで買い物に行くからそれ相応の格好しろとか言ったくせにどこにも行かねえじゃねえか!」

今日もほら、僕のふとした嘘に騙された人が一人。珍しくジャージじゃなくてジーパンを履いているシンタローくんだけれども、上半身がおじさん臭くておかしな服装だった。実際、引きこもりのシンタローくんがろくな服を持ってるはずがないのだからお父さんの服を拝借したのかもしれないけれど。

「ゴメンね。たまにはシンタローくんのジャージ姿以外も見てみたいなぁって思って」
「こっちはクローゼット引っ掻き回してものすごい時間かけて選んだんだよ!それなのにエネには終始大爆笑されるしキドも苦笑いだしモモに至ってはダサいとか言われたんだからな!あの壊滅的センスのモモにだぞ!」
「だって君もセンスないもの」
「全部お前のせいだからな!」

顔を真っ赤にして指差して文句を吐き続けるシンタローくんはいかにもお怒り心頭といったご様子。そんなにカッカすることもないんじゃないの、とか言ったところで焼け石に水だ。そんな奴らはもう見飽きた。
『お前のせい』そうだね、僕のせいだよ。僕が嘘をつかなければシンタローくんは恥ずかしい思いなんてしなかった。でも誰かに確認を取れば一発でバレるようなくだらない僕の嘘を信じたのはシンタローくんだもの。君だって同等さ。
そうやって相手を下げて笑って、僕はそれを楽しんでる。軽い吐き気を覚えるような悪趣味だ。でも、やめられない。

「やっぱシンタローくんは狙い通りのリアクションしてくれるから面白いね!」
「オレは大迷惑だよ!」

これはまあ、病気みたいな物だ。とりあえず嘘吐き病とでも読んでおこうか。人をからかって、そして相手がみじめな姿を晒すことで「自分はコイツよりも上にいるんだ」とくだらない虚栄心を増幅させるための、くだらなくってヘドが出る最悪の病気。シンタローくんはそのための駒に過ぎない。勿論立派な仲間、なんだけどね。でも仲間ほど裏切りやすいものはないのも事実なんだ。そうでしょ?

「ねぇ、僕のこと嫌いになった?」

嘘ついて、貶めて、そんな風にしか生きれない僕のこと。

シンタローくんはなんて言うかな。大声で怒鳴られちゃうかな。静かに蔑んだ目をくれるのかな。キド達に伝えるのかな。そしたら僕どうしよう。メカクシ団のみんなから嫌われたら僕ここに居られなくなっちゃうなぁ。それは嫌だなぁ。でも僕がそんなことを考えたってしょうがない。ここはシンタローくんに賭けるとしようか。

「で、どうなのシンタローくん」
「どうって言われたって‥‥‥別に嫌いじゃねぇし」
「へ?」

あらら、これは予想外。てっきり今までの鬱憤を詰め込んだ罵詈雑言を殴り付けてくると思ってせっかく身構えておいたのに。そんな力が抜けちゃうような答えやめてよ。代わりに間抜けな声が出ちゃったじゃないか。

「いやだって、僕シンタローくんに嘘ついて遊んでたんだよ」
「それが何だって言うんだよ。そもそもエネに鍛え上げられたオレがこの程度のことでへこたれると思うか?」

自信ありげにそう言って、シンタローくんは呑気に欠伸をしていた。あはは、調子狂うなぁ。そうやって言われたら自分のこと嫌いになれないじゃないか。僕は人を騙してばっかりの最低な人間でなくちゃいけないのに。馬鹿だね、シンタローくん。そうやって僕を許しちゃうからまた君に嘘をつくんじゃないか。君のその優しさが仇となって君に跳ね返っていくことくらい、賢い君ならわかるんだろう?それとも見てみぬフリとか?ははっ。もしそうなら僕よりもずっとタチが悪い。

「‥‥‥それ、自信ありげに言うことじゃないよね」
「そりゃそうかもな」
「シンタローくん、」
「何だよ」

こんなこと本当は言いたくないんだよ。だって癪に触るから。シンタローくんなんかよりもずっとずっと僕の方が社会的に溶け込めてるし世間体もいいんだから。だから滅多に言ったりしてあげないんだからよく聞きなよ。‥‥‥やっぱ聞かなくていいかも。相反する二つの感情をぎゅうぎゅうと押し込めて、やっとのことで震える喉から音を出す。

「ありがと」

僕を肯定してくれたその事に対するお礼。それ以上でもそれ以下でもない。僕の突然の「ありがとう」に驚いたシンタローくんの顔、間抜けだ。今日はそれに免じて水に流してやろうじゃないか。‥‥‥何をかって?なんだろうね。もうなんでもいいや。
君は、シンタローくんは、多分これからも何度も僕に騙されるんだろうね。その度に僕に文句を怒鳴りつけてはそのまま何事もなかったように僕に接するんだろう。謝りもしない僕のことを責めるでもなく蔑むでもなく。僕はまたそんな君に甘えるだろう。だから謝っておいた。これきりだけど。

「普段もそのくらい素直だったら楽なのにな」
「おあいにく様、もう次の手は打ってあるんで。楽しみにしててねー!」
「はぁ!?それどういう意味だよ!」

さっきまでの偉そうで、それでいて頼りたくなるシンタローくんはどこへやら。お帰りいつものちょっぴり情けないシンタローくん。さぁて、次はどんなリアクションを見せてくれるのかな?今度はエネちゃんだけじゃなくてキサラギちゃんにも協力してもらえるみたいだから今までいっちばん笑えると思うんだ。ああ、笑うのは勿論僕だよ?ふふっ、今から明日が楽しみだね!



title:にやり

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