拒否と怒り

――――空間の洞窟――――

 洞窟に入った後、スウィートとシアオは無言で歩いていた。
 シアオはまだ現実を呑み込めていないためか、何か考えているので無言。スウィートはスウィートでシアオにかける言葉を探していた。

(……簡単な、ただの励ましの言葉じゃ駄目なの…………。それじゃ、シアオの迷いや不安はいつになったって消えない……)

 スウィートなりに色々と考えていたが、いい答えや言葉は見つからない。
 すると敵ポケモンが襲い掛かってきた。

「……はどうだん」

「シャ、シャドーボール!」

 スウィートはいつもどおりの調子で敵ポケモンを倒す。
 だがシアオには覇気がなかった。目は少し虚ろで、スウィートはそんなシアオを見るのが嫌だった。

(お願い、シアオ。いつもの笑顔を見せて――……)

 スウィートの想いは、シアオに伝わらない。








 そして洞窟を抜けると、ようやくシアオが言葉を発した。

「少しはヤミラミ達と距離がとれたかな……」

「た、多分……。声は聞こえてこないし……」

 スウィートはシアオが言葉を発したことに驚きながらも言葉を返す。
 2匹が少し歩くと、ある物を見つけた。

「ねぇ、スウィート。あれって……水、かな?」

 スウィートはシアオが指をさした方向を見る。そこには色のない、シアオの言う通り水だった。
 水は上から流れてきてそして下に落ちている。小さな滝のようなものだった。下に落ちた水は跳ね上がり水しぶきができているが、宙に止まったままだ。

「……ホントに、本当に時が止まっちゃってるんだね…………」

「……そうだね」

 悲しそうに言うシアオに、スウィートは短く返した。
 シアオは時の止まってしまった所は寂しい所だと言っていた。それが目の前全体に広がっているのだ。シアオがいう、寂しい世界が。
 それを見ながら、シアオは辛そうに言葉を発した。

「ゼクトさんは何で僕らを未来に連れてきたんだろう……。あんなに、あんなに親切だったゼクトさんがなんでっ……」

「シアオ……」

 シアオの不安、困惑等はほとんどがゼクトが占めているらしい。ゼクトのことを話すシアオはとても辛そうだった。
 どうすることもできない、スウィートは自分に少し腹がたった。
 どうしてこんな大事なときに何もしれあげれないのか、と。何か言葉をかけてあげられないか、と。

「もう訳わかんないよっ……! 僕は一体、何を信じたらいいんだよっ……!?」

 シアオが悲痛の声をあげる。
 それを聞く度に、スウィートの胸がズキン、と痛くなった。けれど何もできていない。

「せめて……せめて何か、真実を解く手がかりがあれば……」

 そういってシアオは前を見た。
 するとシアオの視界には水が入ってきた。それを見て、シアオは何か思いついたように

「そ、そうだ!!」

 と言ってスウィートの方を振り返った。スウィートは首を傾げる。

「スウィート、真実を解く手がかりがあるよ!」

「え?」

 スウィートは更に首を傾げた。
 ここにあるもので何か情報を得られそうな物はない。なのに真実を解く手がかりとはなんなのだろうか、と。

「時空の叫び≠セよ! スウィートの時空の叫び≠使うんだ。この水しぶきに触ってみて!もしかしたら何か見えるかもしれない!」

「そ、そっか……!」

(確かに……やってみる価値はある。ううん、やらないよりはマシだ。何か行動に移さないと)

 スウィートは水しぶきに近づき、そして水しぶきに触った。
 シアオはスウィートをジッと見る。その場に沈黙がおきる。そして数十秒後

「……どお? スウィート。何か見えた……?」

「……………駄目。何も見えない」

 少し震えたシアオの声に、スウィートは申し訳なさそうに答えた。
 いくら集中しても、時空の叫び≠ェおきることはなかった。おかしいな、とスウィートは首を傾げる。
 スウィートの返事に、シアオはあからさまにがっかりする。

「そっか……。結局てがかりナシ……か」

 俯いていたシアオは顔をあげ、スウィートに笑顔を見せてから、先の道を指さした。

「もう行こう。ヤミラミ達がすぐ近くまで来てるかもしれないし」

「……う、ん…………」

 スウィートはぎこちなく返事しながら、シアオの後についていく。

(ねぇ、気付いている? シアオが必死に無理して笑顔をつくったの、簡単に分かっちゃうの。確かに裏切られて辛い気持ちは分かる……。
 でも、不安や困惑が全く隠しきれていない笑顔を見せられて…私が安心できないの、気付いている?
 だからお願い。本当の貴方の笑顔を見せてよ――)

 本当はそう言いたい気持ちを閉じ込め、スウィートはシアオについていく。そしてまた新たな洞窟に入った。
 スウィートはシアオの事を思いながら悩んで、シアオは1匹でゼクトのことなどを考えて悩んでいた。






――――暗闇の丘――――

 やはり此処でも無言だった。
 スウィートは何度か話しかけようとしたが、シアオの纏っている空気がそれをさせない。
 スウィートは思わず俯く。

(私が……シアオにしてあげれること……言ってあげれることは何?)

 答えが見つからない疑問。スウィートはずっとそればかり考えてる。答えは一向に見つからないのに。

(こんな時…フォルテやアルだったらどうしてるのかな……?)

 現代にいる2匹の姿を思い浮かべる。
 自分とシアオがいなくなってしまい、2匹はどうしているだろうか。やはり優しい2匹のことだから探してくれているのだろうか。

 そんな事を考えていると、いつの間にか出口についた。


「うわぁ……」

 洞窟をでた後、高いところにでたらしく、上から下の風景を見渡せた。
 暗くてほとんど見えないが、真ん中らへんには光が集まっていて綺麗な光景だった。

「やっぱり未来は……真っ暗なんだね……。
 ……真ん中あたりに光が集まっていて、とても綺麗だけど……でもあの光は…………もしかしたら、処刑場のものなのかな……?」

 その言葉にスウィートがチラリとシアオを見ると、目には涙が滲んでいた。
 スウィートは本当に情けない気持ちで一杯になった。こっちも泣きそうになるが、泣いたってしょうがない。

(私は……私は何もしてあげれてない……)

「ねぇ、スウィート。ゼクトさんは今まで僕たちを助けてくれたし、色々なことを教えてくれた。
 だから僕は……ゼクトさんのことを凄く尊敬してた……」

「…………」

 スウィートは黙って聞く。シアオの考えを聞けば、何か言ってあげられると思ったからだ。

「でも……でもゼクトさんは……僕らのことを騙していたのかな……。
 …………でもやっぱり信じられないよっ……! 僕もう何を信じていいか分からないっ……。頭の中がぐちゃぐちゃだよっ…!!」

 シアオの頬に一筋の涙が伝った。
 どうしたらいいのか、分からない。シルドのいう事ばかりが頭の中をグルグル回る。しかしゼクトの元の世界での態度を見ると、そう信じたくないのだ。そう、ずっと堂々巡りをシアオは繰り返している。
 スウィートは顔を俯かせていて、どんな表情をしているか分からなかった。

「フォルテやアルは……今頃どうしてるだろう……。ギルドの皆は……僕らを心配してくれてるのかなぁ……?
 …………僕は……何を信じたらいいんだろうね……? 何処まで逃げ続ければいいんだろう……? 元の時代…元の世界に帰れるのかな……?」

 シアオは未来世界を見ながら、いや、未来世界など見ていない。その遠く、どこまでも遠く、そんな場所を見つめているように見える。
 スウィートはそんなシアオを見て、考えていたことを言おうと決心した。

「ねぇ、シアオ。…………シルドを追いかけよう」

「えっ!?」

 するとシアオが弾かれたようにスウィートを見る。
 スウィートは真っ直ぐシアオを見ていた。シアオは少し間を空けてから困惑した表情で発言した。

「ど、どうして……!?」

「……シルドは未来、つまり此処から私たちの時代にきた。だったらシルドは元の時代に戻れる方法を知っているはず…………」

 スウィートは考えていることを全て言った。
 シアオに納得してもらうために。方法がそれ以外、もうないからだ。だが

「僕は……それでも僕は嫌だ!」

 シアオは納得しなかった。
 必死に「シルドを追いかけること」を拒否する。いや、シルドと協力するという事を拒んでいた。

「だって、だってシルドは悪い奴だよ!?
 アイツは、シルドは……時の歯車≠盗んで星の停止≠おこそうと僕らの世界にきたんだよ!? スウィートだって知ってるでしょ!?
 そんな奴のことなんて……僕は信用できない!」

 全くといっていいほどシアオは協力する気がないようだ。スウィートは黙ってシアオを見ながら聞く。
 そのままシアオは声を荒らげて続ける。

「それに……シルドはヒュユン達とかも傷つけた悪人だよ!? そんな悪人を信用するなんて……絶対に僕は嫌だ!」


「だったらそれ以外に、シアオはどうしたいの!?」


 すると黙っていたスウィートが怒鳴りに近い声をだして、シアオに問う。
 シアオはその疑問か、それともスウィートの怒鳴り声か、どちらかは分からないが、目を瞠った後に顔を曇らせ、戸惑いを見せた。
 するとスウィートはまた声をあげる。

「私にはシアオの考えが分からない! 帰りたいんだったら帰る方法を探すのが優先でしょう!? 今は誰を信じるとか、そんなのどうでもいい! シルドかゼクトさんか、どっちが正しいかなんてどうでもいいの!!
 私はシアオの心が分かる訳じゃない! だからシアオがどうしたいのか、はっきり言ってくれなきゃ分からないの!!」

 完全な怒鳴りだった。
 スウィートの瞳には少しだけ怒りの色が見える。少しあった怒りは抑えていたが、もうスウィートは限界だった。

「私たちが今1番にやるべきことは帰ることでしょう!? 
 フォルテやアル……ギルドの皆に会いたいなら尚更……! 帰る方法を探す方が先決じゃないの!?」

「でも! シルドが言う事は全部が嘘かもしれないんだよ!?」

 スウィートが思いのままに言葉を発していると、シアオが声をあげた。
 こうやってスウィートとシアオが声を荒らげて、言い合いをするのは始めてで。シアオ自身は、少し戸惑っていた。
 スウィートは言葉に詰まらずそのまま返した。

「嘘か本当かは自分たちで考えるべきでしょう!?」

「それで嘘を信じてしまって、僕らはシルドにやられたりしたらそれこそお終いじゃないか!!」



「だったら何でシアオは処刑をされずに今こうやって無事でいるの!?」



 するとシアオは言葉を詰まらせた。
 処刑のとき……あれはシルドのお陰で助かったも同然だ。ただシアオはそれを認めていなくて、言葉を詰まらせたのだ。

「それ、は……」

「シルドのお陰でしょう!? もし彼がいなかったら、私たちは処刑されるところだったんだよ!?
 それにもしも本当に私たちが邪魔で殺そうと思っていたのなら、光の玉を投げた後に私たちを穴を掘るで隠さず、自分だけ隠れる。そうすれば私たちだけを処刑することだって十分、可能でしょ!? なのに彼はそうしなかった!!」

 自分たちはシルドに助けられた、という事実をシアオは呑み込めなかった。
 スウィートの言っている通り、助けられたというのは分かっても、シアオはどうしても認めることが出来なかった。いや、頭がそれをしようとしなかった。

「けど……でも…………」

 しかし反論のしようが無い。
 すると少し落ち着いたスウィートは、怒鳴らずに言葉を発した。

「シアオ……不安なのは分かるよ。私だって不安だから……。ゼクト、さんの事やシルドの事……何が本当で何が嘘なのかは分からない。
 ……けどね、私は何よりも帰りたい。帰って皆に会いたい。何より、皆に会いたいの」

 シアオは俯いたまま何も言わない。
 スウィートは処刑場の光と思われる場所を見た。それは先ほど見たときより、少し遠くに感じる。
 するとシアオが俯きながらも話した。

「……スウィートの言いたいことは、僕も分かる……。
 ゼクトさんがあんな状態で何も聞けないとすると、この未来世界で知っているポケモンは…シルドしかいないもんね……」

 スウィートはシアオを見るが、顔が見えないので何を考えているのかはわからない。ただ黙って聞く。

「……分かった」

 それだけ言うと、シアオは顔をあげ、スウィートを見た。表情はいつものような笑顔、それでスウィートを見ていた。
 スウィートは少しだけ目を見開いた。いつもの笑顔が見られたから。

「シルドを追いかけよう。信じるかどうか……それは自分で判断することにする」

「!!」

 その言葉を聞き、スウィートは顔を綻ばせた。そしてスウィートはシアオに笑顔で

「ありがとう」

 心から感謝の言葉を言った。
 シアオはその言葉を聞き、首を横に振る。スウィートは首を傾げた。

「スウィートがお礼をいう事じゃないよ。お礼と謝罪を言わなきゃいけないのは僕だ。スウィートだって不安だって言うのに1匹だけで悩んで……。
 ごめんね、そしてありがとう。僕はもう……大丈夫だから」

「シアオ……」

「行こう。シルドを追おう」

 スウィートは首を縦に振ってから、シアオとともに先に進んだ。




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